投資信託は比較的安全な投資だ、と思っている人は考え方を変えたほうがいいかもしれません。
ショッキングな情報が巷を席巻しています。
先ごろ金融庁が発表したデータで、投資信託の約50%が損を出していることが判明し物議を醸しだしています。
比較的安全だと思っていた折角の投資がマイナスでは、資産はどんどん減っていきます。
投資信託は上手に購入すれば比較的安全な投資なのです。ただしやはりその仕組みを知っておかないと思わぬ損をしてしまいます。
大切なお金です。損をしないように、今回は投資信託の基礎を学んでいきましょう。
投資信託の基礎
まず最初に投資信託とは何かをできるだけ簡単に記します。
投資信託とは、投資のプロ=ファンドマネジャーが市場を調べ、実際に投資先に聞き取りを行ったり、データを分析したりして、儲かりそうな株や債券をリスクとリターンも考慮したうえで組み合わせた運用商品です。
投資のプロが選んで良さそうな投資先を組入れているのだから、自分が選んで買うよりも儲かるだろう!と思うのも無理はありません。ですがそこには大きな落とし穴があるのです。
投資信託のリスクとリターン
投資、或いは投資信託で覚えておくべきこと、それはリスクとリターンです。
世の中の投資においての一般的な考え方は、ハイリスク・ハイリターン~ローリスクローリターン、と言われるもの。
つまり、リスクとリターンが見合っているという考え方ですね。
少ないリスクしかとらないなら少ないリターンしかない。
高いリスクを取れば高いリターンを得られる、との考えかたです。
当たり前ですよね。
ですが、実は投資の場合にはハイリスク・ローリターンが普通に起こるのです。
リスクとリターンが見合わないのです。
むしろ、考え方が間違っているとも考えられるのです。
リターンが高いからリスクが高い。
高いリスクを取れば高いリターンが得られる。
このいずれも間違ってはいません。
ですが、このような考え方で投資をすると、高い確率で損することになるでしょう。
投資をする場合は、高いリスクが予測されるから、高いリターンを得られる可能性が高くないと投資する意味はない。
この様に考えるのが、ファイナンス的考えかたという事になります。
基本的な考え方―正規分布
これから実施しようとする投資が正規分布していると仮定すると、リスクとリターンは下の図のようになります。
正規分布、学生の時に習いましたね。左右対称の釣鐘のようなグラフになります。
平均=μ(ミュー)
標準偏差=σ(シグマ)で表します。
標準偏差とは、データのバラツキの大きさを表すものです。
例えば、期待収益が5%の商品があって、ばらつきが0。
5%以上もらえることもないし、それ以下になることもない。
定期預金のようなもので、投資の世界では国債をバラツキ0だとみなしています。
つまり確実に5%利息がもらえるのであれば、σは0ということになります。
そして、時によっては6%や7%や10%のこともあるし、3%、2%、また場合によってはマイナス5%のこともある。このような場合には標準偏差は0よりも大きな数字なります。
「標準偏差の数字が大きいほどばらつきが大きくて、上下に大きくブレる」
そのように理解すれば良いと思います。
少し頭が痛くなってきましたか?
では、わかりやすく例をあげて説明します。
投資における標準偏差を使った考え方
例えば、
投資信託Aという商品があったとします。
投資信託Aのμ=リターン=予定利率が5%だとしましょう。
そして、1標準偏差が20%であると記されている商品があったとします。
これの意味するところは、
5%の利息が付きますよ。
ですが、68.26%の確率で、下は-15%(5%-20%)、上は25%(5%+20%)までぶれますよ、ということなのです。
つまり、投資信託Aを100万円で買った場合
これ買ったら105万円になるんだな!?
と期待して買いますが、
実際には85万円から125万円の範囲でぶれます、ということがわかります。
105万円にはあまり意味がないのです。
これをもう一つの投資信託Bでみてみましょう
投資信託Bのμ=リターン=予測利率が3%だとしましょう。
そして、1標準偏差が10%だとします。
この場合には、
平均で3%の利息が付きますよ、
そして、68.26%の確率で、下は-7%(3%-10%)、上は13%(3%+10%)までぶれますよ、ということなのです。
同じく投資信託Bを100万円で買った場合には、
この投資信託は93万円から113万円になるんだな。
と考えることになります。
決して、
これに投資すれば103万円なるのか!?。
とは考えないと言う事です。
正規分布の場合には50%の確率で損するか得するかということになるのです。
つまり、損する確率も得する確率も五分五分なのです。
ただし、標準偏差が小さいほど、期待利率を得られる確率は高くなります。
そして標準偏差が大きいほどハイリスク・ハイリターンになります。
因みに、投資の判断のためには2 x -σ(標準偏差)で最大のリスクを算出すべきと言われています。
上記の投資信託Bの場合、17=3-2×10となります。
最悪な事が生じた場合(4.56%の確率)には、17万円損失が生じる事を想定すると言うことです。
投資信託は必ずしも正規分布しない
しかし、実際にはほとんどの投資信託は正規分布しません。
ファンドマネジャーが苦心して組んだポートフォリオですが、そこには歪が生じます。
今まさに伸びようとしている株、隠された不祥事が発覚して暴落する株、持続的に成長している株、これらを組み合わせます。
なのでいくらバランスよく組んだとしても、正規分布になるとは限りません。
事実、これまでの検証では、長期になればなるほど分布には歪みが生じて正規分布ではなくなることがわかっています。
世の中では常に不測の事態が起こるのです。
従って、個別の投資信託商品を購入する際の標準偏差は、参考にはなりますが、盲信はできないのです。
また、投資の世界では2σの外、つまり計算上は滅多に起こらない事と言われる状態が、比較的頻繁に起こっている事も知られています。
事前に分かることは、その商品の過去の成績だけです。
過去の運用成績が良かったことが即ち、今後の運用成績を予測させるものとは限らないということです。
これが投資信託商品を選択する難しさ、ということになります。
何で利回りが良い商品は振れ幅が広くなるのか
では、どうして期待収益が高い商品は振れ幅が大きくなるのでしょうか?
ここで、投資信託ではなく、企業の株を持って考えてみましょう。
例えば、IT系の比較的若い会社の企業Xの株の動きを考えましょう。
時流に乗って収益を増やしてどんどん成長して行けば、この企業Xの株価は高くなりそうですね。
しかし、競合相手が出てきたり、思ったほどお客さんの反応が良くない場合には、業績が振るわず倒産するかもしれませんね。この場合株価は二束三文になります。
この企業に100人の投資家が100万円ずつ投資して株を買ったとします。資金が1億円集まりますね。
その資金で企業Xは営業を続けて成長を目指します。
投資家は100万円がもっと増えること、つまり株価が上がることを期待します。
この場合、基準とするのが無リスクの投資、つまり国債の期待収益なのです。
仮に国債の期待収益率=利息を1%としましょう。
投資家が何も考えずに国債を買えば、リスクなしで1%の利息をもらえます。
なので、企業Xに投資する場合には、二束三文なる可能性も含めて投資しますから、国債を買うよりは大きな利息=期待収益がなければ投資する意味がありません。
そのために企業Xの経営者は最低1%以上の期待収益を出さなければ投資から一人100万円ずつの投資をしてもらえないのです。
では、2%でよいのか、5%必要なのか?いくらが良いのかは、その企業の成長性と危険性が勘案されて決まります。
リスクが高いと投資家が判断するのであれば、経営者は高いリターンを約束しなければ投資してもらえない、ということなのです。
つまり、利回りの良い商品のリスクが高くなるのではなく、利回りをよくしなければ、そのリスクをとってもらえないので、頑張って利回りをよくする、そのように考えればわかりやすのではないでしょうか。
結果、利回りの良い株を多く入れた投資信託商品はその分ブレ幅が大きくなるということになります。
投資信託で考えられるリスク
投資信託は、株や為替などの投資案件を組み合わせた商品です。
ではどのようなリスクがあるのか?ということですが、結局は他の投資案件と同じなのです。
- 為替リスク:企業がいくら頑張っていても、為替が大きく変動すれば利益は一気に吹き飛んだり、増加したりします。しかしこれを読むのは困難ですね。(為替予約という手法はありますが)
- 政治リスク:政権交代や他国の政情不安も経済には大きな影響を与えます。
- 自然災害リスク;台風や地震、津波や洪水、これを予測が不可能です。
- 金利変動リスク:金利の変動は経済活動には直接作用します。
- テロ、戦争
これらリスクはあらかじめ予測して組み込むことができません。なので、「何で利回りが良い商品は振れ幅が広くなるのか」の項で述べましたように、リスクが高そうな案件はリターンが高くなっている、との基本を理解して、商品選択することになります。
更に厄介な信託手数料と販売手数料
ここまで解説したことに加えて、投資信託には信託手数料や販売手数料がかかるものがあります。
ところで、他の投稿でも記述していますが、最近の銀行は融資先がなくて困っています。
これまでは個人の不動産投資に融資をつけていたのですが、昨今の融資不祥事により不動産への融資については査定が厳しくなっています。
お金を貸すことで利益を得る銀行としては、投資信託を売って手数料を稼ぐことにシフトしています。
ところが銀行が手数料を稼げる商品はむしろ投資家にとっては不利な商品であることも多いのです。
私の知り合いで某一流証券会社に勤めていたけれど、さわかみファンドに転職した人がいます。
自分では「これ結構リスクが高いな」と思っている商品でも、会社が儲かるので「売ってこい」と言われて営業するのが嫌になったとのことでした。
一流会社だからと言って、必ずしもお客さんの利益を最優先しているわけではないのですよ。
インデックス連動型とアクティブ型
投資信託にはインデックス連動型とアクティブ型があります。
アクティブ型というのはファンドマネジャーが選りすぐった銘柄を組み合わせてより大きなリターンを得られるように運用します。
そのための手数料を取られるのは仕方のないことです。
勿論それで大きな運用益が得られればそれで問題は無いですし、実際に大きなリターンが得られることもあります。
ですが、残念ながら運用のプロが運用で成功する確率は必ずしも高くないのです。
もしそれほど高い確率でハイリターンな運用ができるのであれば、ファンドマネジャーは皆億万長者になっているはずですよね?!
先程のリスクとリターンの解説をよく思い出してください。
リターンよりリスクの方が高くなる事がままある。
それに加えて信託手数料と販売手数料をとられては、なかなか儲かはでません。
初心者としての商品選択の際には信託手数料と販売手数料はかからない、或いは極力安いものを選ぶことをお勧めします。
そしてリスクを最小化して堅実なリターンを得ることを望むのでしたら、インデックス連動型をお勧めします。
インデックス型とは日経225(日経平均株価)やTOPIX(東証株価指数)などの市場の動きと連動させます。
個別銘柄は様々な要因で騰落します。投資のプロでも読みきれないのです。ですが、市場の動きと連動させることで、個別銘柄のリスクはほぼ消滅します。
そして、人間が経済活動を行なっている限り、騰落はあっても市場全体は右肩上がりになり、長期運用であれば損をすることはほぼなくなります。
まとめ
今回解説した以外にもまだ注意点はあります。
毎月分配型は避ける、個別投資信託商品にドル平均法は当てはまらない、などなど。
私も聞きかじりで過去の運用成績が良い投資信託を買って、ドル平均法で3年運用してもマイナスだったことがあります。
ですが、今回の上記仕組みを知っていれば大きく損をすることはなくなるはずです。
結論としては、インデックス連動商品を一定額定期的に購入することが一番安全で利回りも高くなるということになります。
すでに述べましたように、インデックス連動型は主要な銘柄をすべて含んでいるので、個別株のリスクが相殺されます。
結果として、その投資信託のリスクが最小化され、投資家として市場のリスクのみを取ることになる事が理論上証明されています。
個別企業はどんなに有名な企業でも倒産することがありますし、大きく株価を下げることがあります。
最近ではあのエジソンが作ったGEが、米国株式市場を代表する株価指数「ダウ工業株平均」を構成する30銘柄から外れたことが大きな話題になりました。
ですが市場全体は長期で見れば右肩上がりです。
地球の滅亡というような危機的なことがない限り、経済自体は発展していくのですから市場は必ず右肩上がりになります。
まずはインデックス連動型で投資信託に慣れて、自信がついてきてからハイリスクな商品にチャレンジしてみてはどうでしょうか?