長らく中枢神経系の後発品会社として独断場の事業を謳歌した共和薬品の親会社であるインド
ルピンが全株を投資会社のユニゾンに約573億円で売却するとの発表がありました。
既に数年前から経営が厳しい、との声が内部に通じる人物から漏れ伝わっていましたが、ついに撤退の判断が下されたようです。
ルピンは日本から資本を切り離す決断をしました。その一方でインドのサンファーマは日本に投資を続けていますし、大変驚いたことにサンドは投資を増やしています。
それぞれの経営戦略による決断でしょうが、まさに医薬品産業の経営者たちの観点の違いが出てきたと言えるでしょう。
少し詳しく見ていきます。
製薬産業の構造的問題 -後発品を中心に
製薬産業は今選択の時を迎えています。
これまでの低分子化合物一辺倒の時代が終わり、抗体医薬やタンパク質、ワクチン、遺伝子治療や再生医療にリソースが注がれるようになってきています。
勿論低分子化合物の研究開発が終わっているわけではなく、今でも抗がん剤や精神疾患領域では盛んに研究がおこなわれています。
重要なことは上記の如くテーマが多様化しており、どこに自社の強みを持つのかの経営判断が求めれているという事が新薬メーカーの課題です。
経営陣が方向性を間違えると命取りになりかねません。
一方の後発メーカーは、単純な医薬品の品ぞろえでは価格圧力に抗うことが適わず、売上並びに利益の低下を余儀なくされています。事実価格低下圧力が日増しに強くなっている米国で押し並べて各社前年割れの経営成績を余儀なくされています。
そのような環境下、大手後発メーカーは複雑な後発品やスペシャルティー、バイオシミラーに活路を見つけつつ、後発メーカーにも関わらず新薬に手を出さざるを得ないという本末転倒の状況に追いやられているのが後発品業界です。
後発医薬品メーカの戦略の違い
では、今回のルピンによる共和薬品売却をはじめとした各グローバル後発企業の状況を見ていきましょう。
ルピン-共和薬品
ルピンとはインドのグローバル展開している後発品メーカーです。
2007年当時、売上高約75億円の共和薬品の株式99.82%を約100億円で手に入れ、日本政府の後発品普及策に乗って業容を拡大、18年度の売り上げは実に約280億円を記録しています。
順調な経営状況のように見える当社ですが、将来に対する不安は拭えず、昨今はその経営陣から「経営は相当に厳しい」との個人的感想を聞いていました。
日本政府は2020年にも想定した成果が得られたとして、今後は後発品の普及ではなく、後発品産業の淘汰の策を打ちます。かねてより厚生労働省並びに財務省は後発品メーカーの数が多すぎることを懸念する発言をしています。
今後日本の後発品産業は相当厳しい状況に追い込まれることは必至であり、吸収合併、連合、廃業が予測されています。
その期に、ルピンが共和薬品を570億円超で売却できたという事は、大成功の出口であったと言えるでしょう。しかもルピンは今後も共和薬品を通じて自分たちが売りたい製品は売り続けることができます。大変したたかな交渉上手と言えるのではないでしょうか? 十分な利益を確定した投資でした。
ルピンはここで得た資金を米国やインド、他の成長余力が高い市場に向けます。
ノバルティス傘下のサンド
サンドの日本法人はアスペン・ファーマケア・ホールディングスの子会社であるアスペン・ グローバル・インコーポレッドの日本事業を買収します。
この会社は南アフリカ共和国の会社で、麻酔薬を中心に後発品や先発品の承継品がポートフォリオです。
買収金額は約360億円。更にマイルストーンとしてサンドには追加で120億円程度の支払いが生じる可能性があります。
今回の買収先であるアスペンの日本法人であるアスペン・ジャパンは2013/8に操業を開始しており、19年度の売上は約156億円。
156億円の売上ということと、まだ企業として成熟しておらず十分なオペレーション能力がないことが予測されから、税引き後の利益は10億円前後と予測されます(筆者独自の予測であり事実と異なる可能性があります)。その企業を360~480億円で売却するというのですから、アスペンとしては良い出口だと言えます。
一方で、いくらアスペンが特徴がある製品群を持っていると言えども、今後薬価がますます強制的に切り下げられる日本事業で余剰となり得る人材を含めて買収するという、気前の良い大枚をはたいたサンド日本法人にはどのよう勝算があるのでしょうか?
アスペン事業からの利益では投資資金の回収までに30年以上かかる計算になり、他の利益見通しがないと成り立たない買収案件です。
ルピン同様にアスペングループはアスペンの日本事業売却後も5年間製品の原体や半製品、最終製品を供給する義務?と権利を有していますので、日本の後発品市場が朽ち果てるころまで儲け続けることができる構造です。
サンタについては、既にそれなりのポートフォリを有し、バイオシミラーも手掛けて病院市場にアクセスがある状況下で、何を求めて今回の買収を実施したのか?規模の拡大以外に明確な理由は現時点では見出せそうにありません。
サンドが日本からの徹底という選択を持たないならば、今回のような苦肉の策となるのかもしれません。
因みに、サンドの米国での事業では選択と集中という戦略を取っており拡大路線ではありません。
すなわち、外用剤や経口後発品を他社に売却し、自らはより複雑な後発品やBSという利ザヤの稼げる分野に集中するという戦略です。
世界で最も大きく魅力的な市場である米国ですが、後発品に対する価格圧力は強く、後発品各社は大手と言えどもこの数年売り上げ、利益とも減少を余儀なくされています。
最大市場である米国と世界の8%に満たない日本市場。それにしても世界戦略としての規模な経済は期待できず、真の意図は図りかねます。
他の外資後発品会社
日本では上記以外にマイランとテバが後発品大手として活動しています。
米国のマイランはファイザーと手を組んでいます。しかし先行きは必ずしも明るいとは言えません。日本の大手である沢井薬品や日医工に互していけるのか?(実のところ日本には外資後発品メーカーへの参入障壁に似た障害があり、海外のコストを抑えた製品がそのままでは日本に入れないという状況があるのです)
イスラエルのテバは不祥事続きであった大洋薬品を買収して日本での業容を拡大しましたが、欠品、リコールが続き、海外で安く作った自社製品の日本導入も叶わず、多くの製品が承認整理に追われ、源氏では成功しているとは言えない状況です。
テバも武田薬品と組んでいますが、未だ波に乗っているとは言えないのが現況と言って良い状況です。
まとめ
今回解説しましたように、日本での外資後発品企業で成功していると断言できる企業は存在しません。
むしろ日本を見限って、販売ルートを残しつつも撤退を図るというのが実情のように見えます。
海外の安い後発品を導入できない日本のお家事情がいいのか悪いのかは一概には言えません。
外資企業は大きな市場で凌ぎを削っています。その場合、採算が取れなくなれば市場撤退という選択肢があります。
米国に限らず後発品に対する価格圧力は高まるばかりで、利益は細っているのが後発品産業です。
たしかに、それほど高い技術が求められるわけでもなく、同じようなものが複数存在すれば、価格の叩き合い以外に戦えないことは火を見るより明らかです。それが後発品事業の本質でしょう。
そこに下手な付加価値をつけて価格を高くするという戦略は、本末転倒とも言えるでしょう。
結局のところ、後発品ビジネスで生きていくためには、規模の経済にて対抗できる低価格を実現して、一定レベルの品質で安定して製品を提供できる企業が生き残るのであり、その数はそれほど多くないと予測されます。
それができないのなら、何かに専門特化するか、新薬を扱えなければ淘汰される、と、私は予測しますが、あなたはどう思いますか?