武田薬品シャイアーを買収!盟主に残された最後の選択肢

日本での歴史上最大規模の買収劇です!

武田薬品によるアイルランドの製薬企業 シャイアーの買収って、どこにそんなお金あるんでしょう?

報道によると買収金額は460億ポンド(約6兆8100億円)

その内の3兆円は借入金にて、残りの4兆円は自社株発行に賄うと言われています。尚、武田薬品の自社株発行金額量は2兆円とのことですので、その2倍の発行高になるのですが、配当金は据え置くとのことです。

相当なレバレッジをかけた資金調達であることから、武田の信用グレードは相当程度にダウングレードされるとBloombergは述べています。

これにより武田はシャイアーが開発中のヘモフィリア=血友病、ADHD=注意欠陥・多動性障害に関するシーズを手に入れることができます。シャイアーは希少性疾患に強く既に全世界100か国以上で40種類以上の製品を販売しています。シャイアーの2017年の売り上げは約1兆6000億円で1兆7300億円の武田薬品とほぼ同じ。但し、時価総額はシャイアーが約5兆円、武田薬品は4兆円です。小が大を飲み込む構図ですね。

買収が実現すると武田薬品は悲願の世界ベスト10入りを果たします。2017年に18位だったので大躍進です。

それにしても、これで武田の台所事情はますます火の車状態です。

この買収劇についての市場の反応は冷ややかで、発表と同時に株価は暴落しています。

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なぜ株式市場は冷ややかな目で見ているのでしょうか

実は、業界内では有名な話ですが、武田薬品の凋落ぶりは目を覆うばかりです。一時飛ぶ鳥を落とす勢いであったがために余計に際立っているのでしょうか。

もちろんそれを挽回するために、数々の手を打ってはきていますが、今一つ功を奏しているとは言えません。新薬開発力の強化が期待されたほどではないのです。

製薬会社にとって新薬は成長の根源です。いや、どの産業であっても新製品は成長の根源ではあるのですが、製薬会社にとってはまさに死活問題なのです。

その理由は、製薬会社のビジネスモデルが、パテントビジネスだからです。

ここで一旦製薬会社の儲けのからくりを簡単におさらいしてみましょう。

パテントビジネスってなに?

読者の中には薬屋は丸儲けだ、薬九層倍だ、と揶揄する方がいらっしゃるかもしれませんが、それは正確な分析とは言えません。

確かに、薬の原価自体はとても安いです。1錠あたり数円、数十円の原価のものを数百円、場合によっては1000円を超える価格で販売することもあります。

これだけをとらえると、なんてあこぎな商売だと思うかもしれません。しかしどのような製品であっても開発費がかかっています。

企業として、新製品開発に投資をし、販売の為に経費を使い、その開発費や経費を回収して、利益を出しつつ、次の製品の開発に再投資しなければ持続的成長は成し得ません。

多くの産業では新製品の開発に資源を投入して、その製品のほとんどが日の目を見ないということはないでしょう。念入りな開発計画の下で、多少の狂いは生じても、最終的には製品として世に出すことができます。(この世に存在しない画期的なアイデアを製品化する場合には世に出ないこともありますが、、、)

一方、製薬会社の製品開発は全く逆になっています。つまり、これは!と思って研究・開発をしても思ったような効果を発揮しなかったり、副作用が強すぎたりして、数百億円を投じた後に開発を断念せざるを得ないことは日常茶飯事なのです。さらに、効果があって副作用が少なくても、先発品に勝らなければやはり世には出ないのです。

それら失敗した開発費はどうするのでしょう?当然どこかで回収しなければなりません。

先ず覚えておきたいことは、開発が難しく、莫大な費用が掛かるのが医薬品の世界だということです。(因みに、本稿での医薬品とは病院や医院で医師の処方箋によって入手可能となる薬品で、町のドラッグストアで購入可能な薬剤は本稿では別のものとして扱っています。)

開発された医薬品は特許で守られます。その特許がある限り、少なくとも同じ製品を他の会社が開発して販売することはできません。もっとも、最近ではその物質の特性から、同じコンセプトで先発品の特許に触れない同じ作用机機序の製品がすぐに開発されて、市場競争を激化させてはいますが。

最近では新しい機序の製品が市場に投入された半年後には同じ機序の似たような製品が世に出ることも珍しくありません。

それでも特許で守られている限り全く同じものは市場に出てこないわけですから、先に市場を取った製品は、しばらくは安泰なわけです。つまり、特許が有効である間は、利益を確保できる可能性が非常に高いということです。

そうすると、特許が切れたらどうなるのか?との疑問がわいてきますね!

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特許切れの医薬品はどうなるの

そうです、特許が切れたら、一気に売り上げが奪われます。後発品と言われる、全く同じ成分の製品がゾロゾロと世に出てきて、先発品の市場を奪うのです。いわゆるジェネリック医薬品と言われる製品です。

ジェネリック医薬品は、先発品と同じであることさえ証明できれば販売が許可されます。つまり膨大な開発費が要求されず、開発に失敗する確率も極めて低いために、安価で供給できるわけです。もちろん、先発品と同じ価格では市場は受け入れてくれませんので、相当程度安い価格になってしまいます。先発品の半値、3掛け、海外ではもっと安いジェネリックも存在します。

これを製薬産業では「パテントクリフ」と呼んでいます。パテントつまり特許が切れて、崖から落ちるように売り上げが低下する様を模しています。

先程も述べましたが、一気に売り上げが低下します。想像してみてください。これまで全世界で3000億円売っていた製品が、特許が切れた途端に、半年後から1年後には1500億円の売り上げになり、2年後には1000億円を切ってしまう状態を。1000億円、2000億円の売り上げが一気に無くなってしまうのですよ。

勿論、研究者はもとより、経営者は新製品が世に出た瞬間から特許切れの対策を考えます。後継品を出さなければ命取りになることを知っているからです。当然莫大な研究費をつぎ込むのですが、研究費をつぎ込んだからと言って新製品を手にできる保証はありません。今回取り上げた武田薬品にしても湘南に最新鋭の設備を完備した研究所を新設して研究開発に力を入れたわけですが、当研究所での新薬創出には苦戦しているようです。

話を元に戻しましょう。

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 武田薬品は過去にも大型のM&Aを繰り返しています。

武田薬品は過去にも大型のM&Aを実施しています。それらはすべて新薬確保のためです。

08年に米国のミレニアムファーマシューティカルズを約8900億円で買収。

11年にスイスのナイコメッドを111100億円で買収。この時には約6000億円を借金しています。

ナイコメッドは新興国に強いと言われていますが、後発品が主力の会社でした。なぜ新薬を柱とする武田薬品が6000億円もの借金をしてナイコメッドを買収したのか、当時はその買収に懐疑的な意見が多かったようです。

これらは全てパテントクリフを克服するための買収です。11年のナイコメッド買収時には新興国での躍進を果たし、業界12位まで躍進するとの目論見があったのですが、結局2017年時点では未だ18位でした。これら買収は失敗だったのでしょうか?

いや、現時点でこれら買収がすべて失敗であったとは言い切れません。

事実、米ミレニアムが創製したベドリズマブ(潰瘍性大腸炎及びクローン病治療薬)はピーク時売り上げ3000億円超と目され、18年中盤の承認に期待が寄せられています。さらに、イキサミゾブ(プロテアソーム阻害薬=多発性骨髄腫治療剤)が続きます。これは武田のドル箱商品であるボルテゾミブ(商品名=ベルケイド)の後継と目され、上市できればこれも3000億円を狙える薬剤です。

更に武田薬品は、20172月米国のアリアドを約6200億円で買収。この買収の際にも最大4500億円借り入れを行ったと言われています。

巨額の借り入れを実行してはいますが、この時点でも、約9000億円の手持ち買収資金を有していると観測され、更なる買収が予測されていました。

そして、20181月武田薬品はベルギーのバイオ医薬品企業のタイジェニックス(TiGenix)を株式公開買い付けにて約52000万ユーロ(約700億円)で買収すると発表しました。

さらに、18年2月8日、富士フィルムとiPS由来細胞による再生医療について、全世界での共同事業化に関する優先交渉権を獲得する契約を結んでいます。既に京都大学iPS細胞研究所と共同研究プログラムを走らせており、向こう10年間で350億円程度の研究支援を行うことになっており、それを補足する狙いでしょう。

そして、今回のシャイアーの買収です。何とも矢継ぎ早の買収劇です。

武田は既にのれんと無形資産によって2兆円を超える負の資産を有しています。そこに更に3兆円を借り入れることになります。

更に4兆円は新株発行で賄い、その配当を据え置くとしています。このことは武田の財務状況を相当圧迫することは間違い無いでしょう。倍になった配当金をどうやってまかなっていくのか。

手をこまねいていれば生き残れない、それがために巨額の投資をして自社研究力の強化を図ったけれども花が咲かず、結局M&Aに頼らなければ、新薬を出せない。

まさしく窮地に追い込まれた巨人というところですが、日本を代表する製薬企業です。

もうこれ以上の借金はできません。まさにクリフに追い込まれた盟主に残された最後の選択肢。

今後の躍進に期待したいと思います。

 

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