製薬産業の経営環境が相当厳しくなっていることは、このブログでも何度かお知らせしています。
国内市場の伸びが期待できない状況下で、めぼしい新薬を出せないメーカーは凋落の一途です。
その火の粉が医薬品卸産業にまで飛び火しています。
製薬産業、いや国内医薬品関連産業の再編は待ったなし状態です。
そもそも医薬品卸の非効率性が問題であった
現在の日本製薬産業では国内メーカーよりも外資メーカーの方が売り上げが大きくなっています。
過去医薬品卸は大手国内メーカーの系列だったのです。
武田薬品、塩野義製薬、田辺製薬、三共などが筆頭株主としてその販売力を活用していた時代があります。
しかしその蜜月も終わり、流通近代化、外資メーカーの台頭とともにその系列は崩壊し、チェーン病院や薬局との価格交渉力強化の必要性もあり、合従連衡により現在の4大卸に再編されました。
これまでのビジネスモデルではメーカーの営業担当者(MR)が十分にカバーできない医療機関に対してMRの代わりにそのメーカーの医薬品を宣伝する役割を期待されていました。
それら医薬品卸の営業担当者をMSと呼んでいますが、
彼らは毎日のように開業医さんに医薬品を配達しているため先生とも懇意にしていることが多いのです。
人間関係を重視する日本の商習慣において先生と人間関係を築いているMSは製薬会社から重宝がられていたのです。
ですが外資系メーカーの本社幹部からはその非効率性を常に指摘されていた存在でもあります。
海外では卸の役割は単なる物流です。
それ以上でも以下でもなく、そこに特別なフィーは発生しません。
ところが日本では外資系幹部には理解しがたいほどの販売促進費用が医薬品卸に対してかかっているので、常にそのことが議論の対象になっていました。
これまでは「日本の商習慣だから」という理由であったり、「卸のMSを使うことでより販売が伸びるのだ」という説明でそれら多額の販売促進費用が甘受されていました。
しかしそれでも外資系本社からは医薬品卸の有効活用について常に疑問符が打たれていたのです。
前代未聞の医薬品卸切り
そしてここに来てついに前代未聞の卸ギリがなされました。
それを断行したのは、糖尿病の治療に使われるインシュリン等で有名なノボ・ノルディスクファーマです。
ノボ・ノルディスクファーマはメディセオ、アトル、エバルス、中北薬品、モロオ、鍋林、ケーエスケー、 岩渕薬品、以上8社との取引を停止すると各社に通達しています。
医薬品メーカーが一度期に債権リスクなど問題が生じたわけでもないのに、一方的に取引を停止するなどということはこれまでに例を見ません。
これまでは一社で全国をカバーする医薬品卸がなかったのです。
現在でも完全に全国をカバーはできていません。ですが4大卸全てと付き合う必要はありません。
より多くの卸に販売を委ねれば、 それだけ市場競争は激しくなり、いらぬ値引き合戦が起こり大事な薬価が低下してしまうリスクが高まります。
薬価は製薬会社の生命線です。
それだけではなく、厚生労働省指導による医薬品等に関する広告規制が強化されてきているので、製薬会社のMRでさえもまともに製品の宣伝ができなくなってきているのです。
今まさに、MR不要論が叫ばれてる真っ最中なのです。
製薬会社が自社製品の宣伝をすること自体が難しい状況になっているご時世です。
何社ものメーカーの代わりに医師に正確な情報をMSが持っていけると考えるのは、 期待する方が無理というものです。
したがって、余計なフィーを削減し効率化を図る目的で、取引卸を絞り、販促費用を削減する企業は今後確実に増えてくるはずです。
医薬品卸再編は必至|生き残るはメディパルホールディングス、アルフレッサホーフディングス、スズケン、東邦ホールディングスのどこだ
上述しましたようにすでに日本の製薬産業では外資メーカーが台頭しています。
外資メーカーのトップはほとんどが外国人にすげ変わりました。
日系企業トップの武田薬品のCEOは外国人です。もはや浪花節は聞きません。
欠品を起こさず確実に自社品を医療機関に届けてくれる、製薬企業にとってはその機能が確保されていればいいのです。
かつて製薬企業の売り頭だった生活習慣病薬はすでに終焉を迎えようとしています。
今後多くの薬剤が後発品に取って代わられます。
製薬企業はバイオ医薬品や分子標的薬のような新たな分野に注力をしています。
それら医薬品の販売に卸MSの力は必要ありません。
医薬品卸幹部も、その事はずいぶん前から察知しており、 MSにMR認定試験を受験させ MR資格を取らせている会社もあります。
それによって医薬品メーカーのMRの代わりにプロモーションを請負い、フィーを得るというビジネスモデルです。
ですがこのモデルもうまくワークしません。医薬品の配達のついでにプロモーションをするというモデルでは、プロモーションを専門に請け負うコントラクトMR会社には太刀打ちできません。
成功しているのは、オーファン(希少医薬品)の販売請負や使用成績調査の受託のような新規事業です。
国内医薬品産業は海外市場に比較して伸び代がありません。
いくら新薬を出してもです。その理由は、国が薬価を決め、ルールを変更してでも薬剤費を下げる政策をとるからです。
さらに、宅配会社も医薬品配達ビジネスへの参入を狙っています。
これまでは、医療機関の与信管理や急配、物流管理の問題、規制で他の物流会社の参入が阻まれていましたが、徐々に参入しています。
これらの観点から、現有国内医薬品卸は半減してもおかしくない状況だと言えるのではないでしょうか?
まとめ
医薬品産業の再編は待った無しです。それは新薬メーカーのみならず後発メーカーもです。
そして当然のことですが、それらメーカーの物流を担う医薬品卸も、そして買い手である薬局も例外ではありません。
大胆なリストラか、業態変更を断行しなければ生き残ることは困難でしょう。
老人家庭への医薬品宅配の時代もすぐに来るはずです。
ちなみに、もっとも売り上げが大きいアルフレッサホールディングスの2018年12月31日締めの第三四半期の決算状況です。
売上:2,002,693百万円
売上だけを見ると大変な大企業に見えます。ですが、財務状況はとても厳しいというのが実情です。
売上原価:1,850,227百万円(対売上=92.4%)
経常利益:44,484百万円
経常利益率=2.2%
この数字から、医薬品卸がどれほど厳しい状況なのが推測できるでしょう。
残り3卸にいたっては、経常利益率は2%を下回っており、主要4社の2019年3月期連結決算は3社が営業減益との予測が報道されています。
卸業というのはどの業界でも大変利益率が低い事業です。原価が高すぎます。これが現実なのです。
勿論どの企業も手をこまねいているわけではありません。ですがインフラが大きすぎます。なので簡単には手を打てないのです。
今後各企業経営者がどのような手を打ってくるのか目が離せません。