2019年4月以降医薬品業界では、大きな動きが出てくるでしょう。
財源が厳しい日本医薬品産業に伸び代はなく、新薬を中心に扱う製薬会社も海外に活路を見出さざるを得ない状況です。
そのあおりを受けた医薬品卸も再編待ったなしの状況であることは既に述べました。
それでは一般用医薬品を扱うメーカーはどうなっていくのでしょうか?
今回は OTC医薬品に焦点を当てた記事です。
市場の伸びがほとんどないOTC市場
マツモトキヨシやスギ薬局など街のドラッグストアで販売される医薬品をOTC(Over The Counter)、一般用医薬品と呼びます。
海外では無保険の人たちもたくさんいます。
医師に処方してもらう医薬品は保険がないために高くてもらえない人たちが購入できるように、OTC薬はとても安く販売されています。
ですが、日本は国民皆保険制度で、国民であれば誰でも医師に薬品を処方してもらえます。
しかも保険が適応になるので、安く入手することができます。
にも関わらず、OTCメーカーが販売する一般用医薬品は海外に比較して高く、わざわざ医師に処方してもらった方が安くなることも多々あります。
国としては、セルフメディケーションで国民自らが薬剤を買ってくれた方が医薬品への補助がすくなくなるので助かるのですが、一般用医薬品市場の伸びは非常に緩やかです。
2012年に7900億円程度であった市場が、6年経った2018年で8300億円程度であると言われています。
5年でわずか5%の伸びですから、年換算1%に満たないということになります。
日本の国民皆保険制度は既得権者が多く、そう簡単には崩壊しないでしょう。
そうであるならば、一般用医薬品メーカーは、もっと安く提供する仕組みを作れないかぎり、企業として成り立たなくなるはずです。
あるいは、小林製薬のようなユニークな商品を開発することが必要でしょう。
医療用医薬品と同様に、海外で安く生産できる巨大製薬企業は虎視眈々と日本市場を狙っています。
現時点では、医師会の力が強く規制緩和がおぼつかない状況ですが、これ以上財政が厳しくなれば背に腹はかえられぬとばかりに、一気に情勢は変わるでしょう。
その時になって慌てても、対応できるはずはありません。
日本の薬は品質が高いことで有名ですが、それだけでは勝ち残れないでしょう
中国や東南アジアからの観光客は最近何を買って帰るかご存知でしょうか?
昔のような電化製品の爆買いはほとんど見られなくなったとのこと。
最近は医薬品やサプリメントを買って帰るのです。
特に中国では品質が悪く、どのようなものが混入しているか不安なので日本の高品質の医薬品やサプリメントが好まれるようです。
しかしそれにあぐらをかいていては日本の一般用医薬品メーカーの成長はありません。
品質を保ちつつも、今の販売価格の半分近い金額にまで価格を落とせなければ需要は掘り起こせません。
事実、セルフメディケーションが盛んな米国に旅行に行くとその光景を目の当たりにします。
規制緩和はすすみ、 日本では薬剤師の説明を受けなければ買えないような薬品が、ごく普通に陳列棚の上に並んでいます。
安売りで有名なWalwartの陳列台ですよ!
例えばガスターやオメプラゾールなどです。
もし日本がこれに近い状況になったとしたら?日本の一般用医薬品メーカーは全く太刀打ちできなくなるでしょう。
一般用医薬品メーカーの再編劇
すでに一般用医薬品メーカーの再編劇は火蓋を切って落とされているように見えます。
医療用医薬品からほぼ撤退に近い状況でリストラを断交した大正製薬。本業である一般用医薬品に力を入れ始めているようです。
先ごろフランスの一般用医薬品メーカー UPSAを1800億円で買収すると発表しています。
UPSAの営業利益は100億円。1800億円で買収すれば資金回収までに単純計算で18年もかかってしまいます。
それでも海外メーカー買収に活路を見出さざるを得ないお家事情があるのでしょう。
海外での売り上げ増を目論んでいるのか、海外での安価な生産力を期待しているのか、今後の方針が見ものです。
(フランスやEUで売上を伸ばしたいと思っているとは考えづらいです)
一方、業界筋の注目を浴びているのは武田コンシューマーヘルスケアでしょう。
武田コンシューマーヘルスケアの行方は?
武田薬品はシャイアーを買収し、経営を効率化させる必要があります。
シャイアーはオーファンドラッグがメインの会社です。そのポートフォリオと営業力を考えると、現在の武田薬品の事業とすぐさまシナジー効果を出せるとは考えられません。
武田CEOのクリストファー氏は既に資産を売却することでキャッシュを得ると宣言しています。
武田薬品の歴史が詰まった大阪本社も売却しています。
多くの医療用医薬品メーカーは一般用医薬品部門を切り離す算段をしています。
同じ医薬品ですが、経営の考え方も付き合っている卸も販売チャンネルも利益率も全く異なっています。
医療用医薬品分野がますます高度化していく中で、一般用医薬品は経営上のお荷物にもなりかねないのです。
そう考えると、武田薬品が武田コンシューマヘルスケアをどうするのか?は業界関係者としては大変興味を覚えるところです。
この二社以外にも、第一三共ヘルスケアという医薬品大手の一角を占める第一三共のOTC子会社があります。
第一三共という会社は、第一製薬と三共が合併してできた会社です。
時を同じくして藤沢薬品と山内が合併したアステラス製薬という会社があります。
その子会社でゼファーマというOTC会社がありましたが、 アステラスは医療用医薬品に集中するという方針のもと、ゼファーマは2006年に第一三共に吸収合併されています。
これまで一般用医薬品にそれなりに力を入れてきたので、現時点では第一三共ヘルスケアの経営状況は健全なようです。
ですが、世界の潮流は医療用医薬品への資源集中です。第一三共も抗がん領域にシフトしていっています。
第一三共がこの子会社をどうするのか?以前三共はインドの会社買収で失敗したのですから、今更海外工場で安く生産するという方策もとり難いでしょう。
ここも業界再編の目玉になる可能性は否定できません。買うのか、買われるのか。
また地味なところでは、田辺三菱製薬もOTC部門を有しています。
フルコートやタナベ胃腸薬ウルソを販売していますが、知名度が高いとは言えないでしょう。
まとめ
OTC専業メーカーはこの道で生きていくしかありません。
だとすると、株式持ち合いで合従連合が起こるのか?細々と生きていくのか?
残された選択肢は多くなさそうで。
かつてOTC の東の雄と呼ばれた大正製薬が瀕死の状態で生き残りをかけた構造改革を実施しています。
一方の西の雄であった武田コンシューマーヘルスケアはどのような手を打ってくるのでしょうか?それよりも親会社の武田薬品の動向が気になります。
不透明な日本社会において最もホットな医薬品業界からはしばらく目が離せそうにありませんね。