破産検討中のパーデューファーマに学ぶ|製薬企業は金儲け優先なのか?

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 米国パーデューファーマが破産を迎えそうです。 

 

日本経済新聞は、 

パーデューは米連邦破産法11条を申請した上で「公益信託」に再編。薬物の過剰摂取の治療薬などの販売を通して得た収益を、オピオイド中毒患者の支援や治療費として集団訴訟に参加する各自治体に振り分ける。

と報道しています。 

 

供託信託にかかる費用は120億ドル(約1兆3000億円)とも言われ、この和解案が受け入れられない場合、破産やむなしと言われています。 

 

心無い麻薬の乱用のおかげで稼いだお金が、ほぼすべて賠償に消えていきます。 

それでも、おそらくパーデューのオーナーであるサックラー一族の元には相当な資産が残るのでしょう。 

未上場同族会社の経営で得た資産額は明るみに出ることはありません。残る資産額も闇の中です。ただし一説にはサックラーファミリーは130億ドル以上の資産を持つと言われています。 

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麻薬で稼いだサックラー一族 

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パーデューファーマという製薬会社は日本はなじみがない会社ですが、実は先ごろ「イソジン」でおなじみのうがい薬やトローチ販売権を明治製菓から取り返したムンディーファーマという会社の姉妹会社なのです。 

 

これらの企業は上場しておらず、サックラー一族と言われる創業者たちが所有する同族会社です。 

 

米国の医師であったRaymondとMortimer Sacklerの兄弟はパーデューファーマを1952年に買収します。その後この二人が創業したのがムンディーファーマです。 

 

そして、これらの会社はとても恐ろしい事業を推進する事になります。 

パーデューファーマは疼痛管理を主事業とする製薬会社 

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米国コネチカットに本社を置くパーデューが力を入れたのは痛みの管理。 

そうです、現在、特に米国で大問題となり、多くの死者や麻薬中毒者を出しているオピオイド系麻薬の中心会社なのです。 

 パーデューは米国、カナダ、メキシコで事業を営み、英国ではナップファーマ、そしてそれ以外の国々ではムンディーファーマという姉妹会社を通じて事業を行っています。 

一般的な常識では考えられませんが、なぜか会社名を変えて全世界に麻薬を供給しているのです。 

さらに、特許が切れたジェネリックオピオイドを扱う米国最大のオピオイド後発品企業Rhodes Pharmaceuticalsも彼らの姉妹会社です 

 

正しく世界のオピオイドを牛耳っているという体制です。  

ところで、オピオイドとは何なんでしょうか? 

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オピオイドとは、ケシから抽出物質や(半)合成した物質で、いわるゆ麻薬です。 

代表なものとして、モルヒネ、ヘロイン、コデイン、オキシコドンなどが含まれ、また合成オピオイドにはフェンタニル、メサドン、ペチジン等があげられます。 

 

これらは癌の患者さんなど、痛みが強い疾患に対して医師の処方箋下において使用されます。 

 

痛みというものは、場合によっては人の生死に関わるものですから、代替できるほどの強力で副作用が少ない鎮痛剤がない以上、麻薬であっても医療には欠かせないものです。 

 

しかし問題は、パーデューをはじめとするサックラーファミリーの商売の在り方だったのです。 

製薬会社は悪の商売なのか? 

人の生命を救い、健やかな生活を過ごせるための薬剤を研究開発して世に出す存在はずの製薬会社。 

しかし同時に、その経営体制は利益を追求しなければならない民間企業が殆どです。 

かといって、公的機関が医薬品の研究をしても、公費の無駄遣いと言われる非効率性のために、なかなか画期的な新薬世に出ません。 

 

のようなことから、民間企業ではあっても、製薬会社の経営者たちには高い倫理観が求められるのですが、時として倫理観よりも事業の拡大や、利益、名声などを優先する経営者も出てきます。 

米国では有名な某社。 

日本にもあります。あのXX薬品。表向きは健全な大企業ですが、舞台裏は結構なブラックだったりします。 

多くの会社は高い倫理観を持って活動していますが、人というものは誘惑に弱いのです。 

ということで、今回問題のパーデューファーマについて解説していきましょう。 

パーデューファーマの悲劇 

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疼痛と戦うという企業理念は決して悪いものではありません。

健全に運営していれば多く病める人たちを救えます。 

 

しかし、悲劇はContinの開発から始まりました。 

 

これは、パーデューが開発した薬物の新しい放出システムです。つまり、薬物を服用した際に、徐々に体内で放出されて急激に吸収れるのを防いだり、持続時間を長くするという技術です。 

 

かれらはこの技術をモルヒネに応用して、MSコンチンとして売り出し、その後1996年にはオキシコドンの徐放製剤、オキシコンチンとして発売を開始しました。 

 

これら薬剤の宣伝文句は、「独自の徐放技術で12時間にわたって疼痛を緩和できるので、即時放出タイプの物より乱用の可能性が低い」といういうものでしたが、科学的根拠は無かったと言われています。 

 

当時はFDAの規制も緩かったのでしょうか。 

 

実際に効果は12時間程度持続するようですが、問題はこれが麻薬であるという事です。 

麻薬中毒者たちは痛みの為に麻薬を服用するわけではありません。 

また、患者さんによっては12時間持続する効果も十分ではなく、禁断症状に悩まされる人も少なくないと報告されています。
引用:2016年ロサンゼルスタイムズ
 

 

これら薬剤の服用者は、禁断症状を和らげるために12時間前に薬剤を服用し、その結果中毒症状を発症して麻薬による高揚感や多好感を得たい、もっと得たい、と大量の薬剤を服用し、そして更に中毒になる、あるは過剰摂取で死に至るのです。 

 

米国歌手のプリンスの死亡は麻薬の過剰摂取でしたね。 

 

サックラー氏による大々的マーケティングキャンペーン 

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さて、パーデューファーマはサックラー氏の指示のもと、大々的なキャンペーンを行い、医師たちの処方を誘引しました。 

 

それが適性使用を促すものであれば良かったのですが、実際には、より多くの医師により多くの処方をださせてオキシコンチンの売上を増大させることが優先されたのです。 

 

中には、違法であることをわかっていて、数千万円、数億円規模のオキシコンチンを必要ではない人たちに処方して大儲けする医師も現れました。(のちに起訴逮捕されていますが) 

 

また、麻薬がほしい人たちは、ドクターショッピング(複数の医師にかかること)にて、不必要な薬剤を入手するということも稀ではなくなり、麻薬中毒者が急増したと言われています。 

 

オキシコンチンは、巧みなマーケティングキャンペーンで、それほど手軽に処方される薬剤となっていたのでしょう。 

 

当時、パーデューファーマは、自分たちの製品が乱用され多くの中毒患者や死亡する人たちが出ていることに気づいていましたが、マーケティングキャンペーンは自粛されることなく、今日にまで至る悲劇を生み出してしまいました。 

 

訴訟まみれのパーデューファーマ 

 

その後同社は数々の訴訟に巻き込まれます。 

一件あたり数十億円規模の支払いに応じ、2007年5月には700億円を超える罰金の支払いに応じていますが、根本的な事業の是正策は取られず、今日に至っています。 

 

勿論、オキシコンチンは米国にとどまらず、ムンディーファーマやナップファーマを通じて全世界に供給されています。 

 

幸い日本は規制が厳しく、外資系企業であるムンディーファーマには麻薬の販売許可は与えられませんでした。 

 

しかたなく彼らは日本で麻薬販売の免許を有する塩野義製薬を通じて日本にオキシコンチンを供給しています。 

 

再度記しますが、オキシコンチン自体にも問題がないわけではありません(持続すると言われる効果が12時間持たず、我慢できなくなった患者さんがより多くのオキシコンチンを服用してしまう)。 

しかし、十分な規制下で、正しいマーケティング活動を実施して使用されれば、多くの中毒患者を出すこともなく、必要な薬剤として世の中の役に立つ薬剤ともいえるのです。 

麻薬を扱う製薬企業の役割 

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2019年、米国オクラホマ州での麻薬販売の手法に係る判決で、パーデューファーマは3月に2億7000万ドルの和解金を支払う事に合意、後発品を扱うテバファーマシューティカルは8月26日に8500万ドルを支払うと発表しています。 

 

しかし、同じく渦中にあるJohnson & Johnsonはオクラホマ州地方裁判所から5億7200万ドル(約600億円)の制裁金の支払いを命じられましたが、それを拒否、上告するとしています。 

 

たしかに、これを受け入れると他の州でも訴訟が予定されているために、際限ないほどの制裁金、又は和解金の支払いが必要になります。 

 

しかし、この姿勢は、製薬産業に関わるものとしては、残念と言わざるを得ません。 

 

J&Jは製薬企業の中でも名門と言われる企業のはずでした。 

しかし、

J&Jは判決後に発表した声明で、自社の鎮痛薬は2008年以降、ジェネリック(後発)医薬品も含めたアメリカの市場で1%以下のシェアしか占めていないと説明した。

と報じられています。 

引用: Johnson & Johnson fined in landmark opioid ruling 

 

販売量が少ないからいいという話ではないはずです。 

 

麻薬を扱う以上、正しい情報を提供して、違法な使われ方や過剰処方を未然に防ぐ手立てが求められるところ、販売促進をしている時点でアウトでしょう。 

 

 

やはり、倫理観の問題です。 

残念ながら、J&Jはこの麻薬に関わる訴訟のほかにベビーミルクの発がん性に関わる訴訟も抱えており、最終的には1兆円程度の費用が必要であると見積もられており、株価の暴落をまねています。名門も一歩間違うと、名声を失います。 

 

まとめ 

長らく麻薬で儲けていた企業が消滅しようとしています。 

 

もちろんこれで医療用の麻薬がなくなるわけではありません。 

 

無くては困る薬剤の一つです。 

 

麻薬に限らず、どのような医薬品も適切に使用されれば、人の健康に寄与できる のです。 

 

だからこそ、高い倫理観のない企業は排除されてしかるべきだと個人的に思います。いや積極的に排除されるべきです。 

 

そうでなければ、製薬産業はいつまでたっても映画に出てくる悪の塊のようなイメージを払拭できないでしょう。 

 パーデューファーマが実際に破産して消滅するのか、存続するのか? 

彼らが持つ必要とされる製品が他社に引き取られて販売されるのか、競合品にとってかわられるのかは分かりません。 

 また、姉妹会社のムンディーファーマがどうなるのかも不明です。 

上場していない企業が、スポンサーであるサックラー一族を失い、稼ぎ頭の麻薬系の利益が激減した場合にどのような手を打つのか?

そしてどのように信頼を回復させるのか、今後の経営者の手腕に委ねるところになるでしょう。 

利益が期待できない薬剤を開発して売って欲しいとは言いません。慈善事業では無いでしょうから。

しかし、本当に患者さんのことを願って頑張る企業が報われて欲しいと、心から思います。

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