ついに中外製薬でのリストラが断行されます。スイスの名門ロシュとの資本提携を経ていち早くバイオの世界でプレゼンスを高め、外部から見る限り最も安定してる会社のリストラです。
満45歳以上の正社員およびシニア社員が対象で、2019年6月30日に退職することになっています。
通常の退職金に加え、特別退職金が72ヶ月分支給されるとの情報がもれつたわっています。
最近のリストラでは破格の加算金です。これまでの製薬産業でのリストラでは60ヶ月の割増退職金が最高の条件だと考えられていました。
にも関わらず応募した人数は172人と決して多い人数ではありません。
これは親会社であるロシュからのプレッシャーに応えるべく取らざるを得ない対応のせいなのでしょうか。
その内実を分析して見えてくることはなんでしょう?
ロシュの業績
では最初に親会社であるロシュの2018年10〜12月期の決算を見てみましょう。
MM CHF | 前年比 | |
売上高 | 14,766 | 9% |
医薬品 | 11,265 | 8% |
米国 | 6,.041 | 14% |
欧州 | 2,086 | -6% |
日本 | 1,001 | -5% |
その他 | 2,137 | 14% |
内訳として特筆すべき点は、主力のハーセプチンやリツキサンに対して、その後発であるバイオシミラーが参入して、欧州ならびに日本では大きな減収となっている点です。この傾向は今からしばらく続くでしょう。
一方で、期待の新薬である抗PD-L1抗体であるテセントリクは大幅な伸長を示しています。先行するBMSのオプジーボや米メルク社のキートルーダにどれだけ迫れるのか、注目したいところです。
ロシュとしては塩野義から導入したインフルエンザ治療剤・ゾフルーザにも期待していますが、日本とアジアの権利は有しておらず、残念ながら中外製薬の業績には寄与しません。
ただし、中外創製の血友病を適応とするエミシズマブ=ヘムライブラが将来大きく成長する可能性を示していることは、ロシュのみならず、中外製薬の業績にとっては大きな希望となっています。
おしなべて、ロシュグループとしてはバイオシミラーによる売り上げへのマイナスの影響は避けられないものの、今後も業績の伸長を期待できる。
以上がロシュの決算から読める事実でしょう。
中外製薬の業績
では、中外製薬の業績はどのような状況でしょうか?
パイプラインはリッチで、ROS1/TRK阻害剤、自社創製のサトラリズマブが控えています。米国FDAはサトラリズマブをブレークスルー・セラピーに指定しており、中外にとってはこれも期待の星です。
これらを含む中外製薬の全パイプラインを見る限り、将来の暗雲はうかがえません。
にも関わらず今回リストラを断行したわけは、決算報告から伺えます。
上述のごとく、ヘムライブラの大きな成長が期待できる一方、目先は主力商品の売り上げに対する後発品やバイオシミラーの影響は無視できない状況になっています。特にタミフルは大幅な減収を余儀なくされています。
2019年の業績予想では、海外売りを含めた全社売上は2.2%の増収を見込んでいますが、お膝元である国内事業では前年同期比-2.7%、108億円の減収を予測する状況です。
出典:中外製薬決算説明会資料より
中外製薬では2019年1月31日 掲載の決算報告資料で将来を見通しています。ITのさらなる進展と個別化医療の普及。奇遇にも、つい先日NECがフランス企業と提携してAIで創薬に参入することを発表しています。今後もAIがらみと、個別医療において異業種からの医薬品業界参入は増えてくるはずです。
製薬産業ではこれまでの延長線上に未来はなく、大きなパラダイシフトが待っています。
Share of Voiceでより多くの市場シェアを獲得しようとしたファイザーもすでに戦略を転換しています。この後だぶついた人員をどうするのか、業界の注目が集まっています。
優れた経営者ほど、会社としては十分な体力があるうちに、厚い補償を提示することで、筋肉質な組織にしておきたいとことでしょう。もうすでに待ったなしの状況なのです。
個別医療が進めば、これまでのようなインフラは無用になります。まったく新しいアプローチが必要になります。
中外製薬のリストラに応じた社員の構成は開示されていません。
また、今後の予定もアナウンスされていません。
ただし、政府による国内市場の強制縮小政策を鑑みると更なるリストラ策が取られる可能性は否定できません。それ程に日本市場は厳しい状況におかれていると考えてよいでしょう。
これほどの業績を残し、リッチなパイプラインを有する中外製薬という企業のリストラが、現在の日本の、そして世界の製薬産業の状況をよく写し出していると言えます。
過去、中外と同じく外資、米メルク社の資本を受け入れた万有製薬は、今は完全に吸収されMSDとして活動しています。中外製薬と万有製薬はその研究力の違いで運命が変わりました。そのMSDでは今も毎年のようにリストラが断行されています。かつて超名門で、ビジョナリーカンパニーとして賞賛されていた米国メルク社といえども、その本体でさえ今は将来のためのリストラの真っ最中なのです。
優れた研究開発力を有する中外製薬の将来は決して悲観するものではありません。ですが構造改革は待ったなしなのです。
まとめ
製薬産業は今大変厳しい状況に置かれています。
大きなパラダイムシフトが待ち構えている産業です。もちろんそれは製薬産業のみならず、自動車産業や銀行業においても同様です。 ITを活用したAIによる新たな業態が出現しています。
それに対応するためには、体力のあるうちにリストラを断行をする以外にありません。世界一とも言えるトヨタ自動車でさえも、終身雇用制にはもう無理があると言及しています。
ただし、それは経営の視点であり、雇用されている側の視点は異なっているでしょう。雇用されるものは慢性的な不安を持っているものと想像します。
その一方で、この業界に携わったものとして、労働組合で経営側と何としても対峙するという愚行は避けて欲しいと考えています。今はもうそのレベルではないのです。行き過ぎた組合活動で企業が倒れれば元も子もないはずです。
辞めたくなければ、たとえ指名されても辞めないという選択肢はあるのです。
抜本的な構造改革を断行すると明言している中外製薬。
親会社からのプレッシャーと日本市場縮小という現実の間での苦渋の決断であったと推察します。
単に会社の持続的成長のために社員を切り捨てる会社も存在しますが、当社の手厚い特別退職金を見ると、大変フェアな制度であると考えられます。
会社としては5年10年後に会社に貢献できなくなるであろう人材に、他の可能性を求める手助けをしていることと捉えられます。
経営の立場からは、至極まともな制度だと評価して良いでしょう。
しかしながら、社員の立場として考えると少し違った結論になります。
筆者の経験と、これまでの取材から、当社のような優良企業を早期退職することを手放しではお勧めできません。
製薬会社を早期退職して、自分の人生をやり直せる人は極々限られた人です。
中には特別退職金の魅力と、日々のプレッシャーから早期退職を選ぶ人もいます。しかし殆どの方は年収は現職の6割程度になり、モチベーションを上げらず苦しんでいます。
私の友人で早期退職に応じた某君は、現在年収400万円で働いています。
10年ほど前であれば、退職しても転職先を見つけることにそれほど苦労はありませんでした。
しかし今はランクを落としても職にはありつけません。業界全体が冷えているのです。後発メーカーに行けば、4割減の収入減ではすみません。
ざっくり計算してみました。
中外製薬レベルの会社であれば、45歳で年収1500万円あっても不思議ではありません。
ただしこれはボーナスを含んでいます。
ボーナス抜きで、1200万円を年収と仮定すると、月給は100万円。
72ヶ月分で、7200万円の特別退職金が支払われます。
現在45歳、65歳まで就業すると、残り20年ですね。
1500万円の6掛けの給料になるということは、900万円です。つまり、これまでより600万円少ない。
この差が20年間続くと、合計では1億2千万円になります。
差額は、4800万円。
実際にはかかる税率が異なりますので、もう少し差額は小さくなります。
ですが、生涯収入で数千万円少なくなる人がほとんどです。
このブログでも何度も述べていますが、30代で次の仕事の目処がついている人や、起業にチャレンジしたいといった明確な進路を持っているような人以外、可能な限り現職を続けることを強くお勧めします。
再度言います。転職して良いのは、すでに仕事目処がついている人です。
そして、もう一つ知恵を授けます。
特別退職金をうまく投資に回せば、話は変わります。投資に関しては当ブログでもいくつも取り上げています。
例えば、
太陽光発電投資です。私も所有しています。5箇所です。
もうすでにブームは去っているだろうと思うのは大きな間違いです。まだまだ儲けられる物件は残っています。
例えば特別退職金の内4500万から5000万円を太陽光発電装置に投資します。
ざっくり計算して、今から始めても税引き後400万円程度の手取りになります。
これが毎年20年間入ってくるのです。
つまり手取りで8千万円です。投資額を差し引いても3千万円程度プラスになります。
これであれば早期退職しても全く遜色ありません。
このように戦略的な活動を取れる方でしたら、早期退職制度を活用するのも悪い選択肢ではないでしょう。