衛生材料を販売する会社から国内大手製薬会社と呼ばれるまでに成長したエーザイ。
しかしやはりここに来て、他の製薬会社の例に漏れずリストラによる構造改革を余儀なくされているようです。
リストラが常態化している製薬会社においてはもはや、何ら驚きはありません。
むしろリストラを断行しない会社は大丈夫なのかと思えるような状況になってきていると推察します。
エーザイのリストラに見る国内製薬会社の根本的問題
実はエーザイは今回のリストラ発表に先立って、米国製薬大手のメルク社と提携をしていたのです。
エーザイが開発した分子標的薬と呼ばれる、抗体医薬品で甲状腺癌の治療薬の全世界での開発販売権をメルク社にライセンス供与したのです。
米国メルク社の販売力をもってすれば、全世界でこの薬剤が販売され、ブロックバスター化することも夢ではありません。
それでも今回エーザイはリストラを断行するのです。
それは何故なのでしょうか?
今後も伸びが期待できない国内製薬市場
エーザイには上記抗がん剤以外にもいくつか新薬の候補があります。
実際に成功して世に出せるかどうかわかりませんが、得意分野の認知症の薬剤も開発中です。
それでも今回リストラを行うのです。
しかも異例の予告付き早期退職制度。向こう3年にわたってリストラを行うということです。
社員のモチベーション?そんなことを言っている場合じゃない!と言うことです。
早期退職度の内容は、ご他聞に漏れず45歳以上かつ勤続5年以上の社員が対象です。
つまり中高年を切り、若返りを図りたいということです。まさしくリストラクチャリングですね。
現在リストラ真っ只中の大正製薬と同じロジックです。
つまり、エーザイにおいては、何らかの期待される能力を有さない社員の居場所は、もはやないと考えるべきでしょう。
世界の医薬品市場は今後も伸びが期待できます。
現在はまだ取るに足らない規模であるインド市場も、10億を超える人口を有しているということから、間違いなく台頭してくるでしょう。
インドネシアもそうです。やはり人口の多い国が伸びていくのです。
一方、視線を日本国内市場に向けると、そこには悲惨な状況しかみえません。
少なくとも製薬産業にとっては逆風です。
日本の財政は大赤字、人口は減少に転じ超高齢化少子化社会を迎えています。
製薬産業が健康保険制度で成り立っている以上、日本市場の将来は暗いと言わざるを得ません。
いくら良い新薬を出したとしても、日本市場では十分なリターンが得られないのです。
その意味では、世界に目を向け、会社の存続をかけて買収を繰り返している武田の選択肢も、頷けるというものです。
武田単独の研究力と規模では、生き残れないとの判断なのでしょう。
日本の製薬会社はこれまでの社内構造を根本的に改革し、世界に目を向け生き残るしか道はありません。
しかし、世界で戦うには、日本の中堅や準大手レベルの財力では欧米列強にはかなわないでしょう。
それができないのであれば、研究領域をしぼり、規模を縮小して、ベンチャー魂を持って良い新薬を発見して世に出すしかありません。
いらない贅肉を削ぎ落とし、体力を温存する。生き残り戦略としては避けられない状況なのでしょう。
そのためには大胆な構造改革、つまりリストラが必須になってきます。
生き残りをかけるなら今しかチャンスはないでしょう。
中小製薬会社が危ない
医薬品の開発はますます困難になり、必要な開発費は高騰していきます。
それでもその開発費を捻出しなければ製薬会社としては生き残れません。
これらを総合的に考えると、現在未だリストラを実行していない中小製薬会社は大変危うい状況だと言えるのではないでしょうか。
むしろリストラではもう間に合わないと考えているのでしょうか?
日本の製薬大手はリストラを断行し、効率化を図った上で新薬の開発成功にかける戦略です。
財力に劣る中小製薬会社は、大手より大胆な施作が必要なはずです。
それら施策がいつ発動されるのか?
日本製薬産業の地殻変動はもう始まっています。
まとめ
このブログでは何本か製薬会社に関する記事をあげています。
医薬品は人々の健康のためになくてはならないものです。
優れた医薬品の発見と開発によって一体どれほど多くの人の命が救われたのか。
製薬会社同士が競争することにより、切磋琢磨で新薬が開発されてきたのです。
未だ治療方法がない難病があります。
未だ十分に治療できない疾患があります。
先日病院の待合室に座っていると、杖代わりの車を押している老婆を見かけました。
その老婆はまっすぐ歩くこともできず、前につっかかるように小幅な歩調で車を押していました。
おそらくパーキンソン病を患っていらっしゃるのでしょう。
パーキンソン病の治療薬は世の中に既に存在します。
ですがこのように、十分な治療効果があるとは言えません。
エーザイが開発したアリセプトと言うアルツハイマーの薬も、当時画期的ではありましたが、十分な治療効果があるとは言えません。
それを上回る効果を示す薬剤を全世界の製薬会社や研究者たちが開発しています。
ですが未だに既存薬の効果を上回ることができません。
しかもたとえアリセプトよりも効果が良い薬剤を出せたとしても、すでに薬価が下がり、開発費に見合うだけのリターンが期待できないとも言われています。
それでも研究者たちは日夜努力を続けています。
苦しんでいる患者さんがいる限り、飽くなき研究を続ける。
企業生き残りためにリストラはやむを得ない経営手段だと思います。
と同時に製薬会社として、利益のために存在するのではなく、患者さんを救うことに軸足を置く。
そんな製薬会社ができるだけ多く生き残って欲しいと願わざるを得ません。
奇しくも、2018/10/23 Meiji Seikaは、パーキンソン病の新薬の国内製造販売承認申請を行っています。
久しぶりのパーキンソン病の新薬です。画期的とは言えないものの新しい希望です。
この新薬、明治がイタリアの会社からライセンスを得たものですが、エーザイは明治からライセンスを得て日本及びアジアで販売を手掛けます。
より多くの患者さんが良くなることを願います。
会社の生き残りと、個人の生き残り。
基本は同じです。自ら動くかどうか、そこにかかっているのだと思います。