ある外資系製薬メーカーでの実話に基づいたあるおっさんMRのお話、でもあくまでフィクションです。
2000年以降、ファイザーの破天荒なM&A戦略により業界地図は目まぐるしく入れ替わり、業界は大型吸収合併とリストラの嵐。
それまで無風でリストラなどどこ吹く風状態であった某社にもついにその時が。
第一弾は、米国本社のリストラ数百人規模
米国本社では戦略にしたがって組織を再編し、日本を管轄するアジアパシフィック部門のマーケティング担当者を中心にリストラが断行されました。米国でリストラは珍しくないものの、長い社史の中で当社でのこのようなリストラは初めてのこと。
日本本社も経営陣の一新とともに、組織改編。
一方で当の◯ァイザーは、フランスからやってきた新社長がいきなりリストラを発表して大混乱。
◯ァイザーは今もそうですが、台糖◯ァイザーと言われた頃からの、強い労働組合があります。
日本の事情を知らないフランスからの社長は労働組合から吊るし上げをくらい、マスコミも騒ぎ出してお手上げ状態に。
収拾がつかなくなった◯ァイザーは、すでに引退していた元幹部を急遽復帰させ、社長に据えるとともに、事態の収束を図りました。
結局のところ、勇み足をふんだ外国人社長は更迭されたものの、その後、結構な額の特別退職金を出すことで会社と労働組合が合意。
当初予定されたリストラは断行されたのです。
その当時、リストラされた社員達はラッキーとも言えました。
なぜなら、業界自体がまだまだ体力があったので、次の製薬関連会社への就職はそれほど難しくなかったからです。
話は戻り、◯ァイザー騒ぎを見ていた某外資メーカーは、いわゆるリストラのプロを雇い、同じ過ちを起こさないよう周到にリストラの準備にかかりました。
日本国内での数百人規模のリストラは、管理職へのトレーニングを徹底して、用意周到、大きな問題を起こす事なく粛々と進められました。
当時の割増退職金は、勤続年数や年齢により差がありましたが、概ね、36ヶ月から60ヶ月程度もあり、金額にすれば結構な額でした。
しかもこれは退職金扱いなので、所得税が格段に少ないのです。
青天の霹靂、リストラにあった人たち
しかし勿論のこと、第一回目のリストラ対象者たちは、寝耳に水。
「まさかこの会社で、まさか自分が? リストにあうなんて」と。
そうです、日本の業績は決して悪くなかったのですから。
その当時のおっさんMRは未だ平MRで40代前半、リストラなんてどこ吹く風、「本社の話でしょ? 営業は関係なし」と言う感じでした。
米国本社が新薬の副作用問題で大きな問題を抱えていたとしても、自分たちの業績は悪くない。
なのにリストラなんだ、かわいそうになと。
しかし、そこは外資の哀しい性。
本社がこけたらその煽りをまともに食うのが子会社です。
個々人の気持ち的には萎えますが、法外とも言える大金を手にして去った人たちは、今どうしているのでしょうか?
多くの人たちは、ワンランク下の製薬会社に再就職したとの事。
必ずしも不幸ではない。
その後のリストラ
味をしめた?会社はその後も恒常的にリストラを断行します。
総務庶務と言われる部門、購買部門、経理や法務、間接部門と言われる部門は軒並みアウトでした。さらに臨床開発のモニターや統計部門など、容赦ないリストラが進みます。
某社では、次はどの部署だ?次はいつだ?がもっぱらの関心ごと。
会社へのロイヤリティーは何処へやら。
世界一の生活習慣病薬の責任者でさえ、リストラされたとか。
そんな中でも例のおっさんMRは所長に昇進。未だリストラどこ吹く風という状態でした。
「まあ、余剰人員がリストラされるのは仕方ないわな」というのが彼の感想でした。
その後、某社が他の外資メーカーと訳あって合併したことが更にリストラを加速させたのは言うまでもありません。
この時点で、営業は別! という考えは甘いものになりました。
毎年のように、数十名から数百名がリストラ、もとい、早期退職制度のもとに会社を去っていくのが状態に。
そんな会社の状態を憂えて、早期退職制度に乗らず、自ら退職していった社員も。
また、リストラをちらつかせ中高年管理職が平社員に降格されたのもこのころでした。
しかし、たとえ降格されてもラッキーな事に給与は据え置き。いやある意味ほんとうにラッキーです。
その当時から、降格の上、地方への単身赴任を余儀なくされ、結局はリストラになった別のおっさんMRも少なからず存在します。
薬剤師資格を持っている社員はターゲットにされやすいとか。
なぜなら、クビにしてもなんとか食いつなげるだろうとの、皮算用があるようです。
実際、リストラになった50代半ばのおっさん達のいく末は、後発品メーカーか調剤薬局。
調剤薬局にしても調剤経験のない新人社員の扱いにしかならず、後発メーかーで年収は600万足らず。
調剤薬局は地方なら600万程度が期待できるものの、都市部では400万円あるかないか。
これでは割増退職金をもらっても帳尻があいません。
そういえば、最近シャイ◯ーを買収した某社の知的財産部員が集団で自主退職したそうな。「こんな会社ではやってられない」との言葉を残して。
再就職大丈夫なのでしょうか?
話を戻します。
戦々恐々の某社ではありますが、給与水準は悪くない。いやむしろリストラの傍、業界平均以上の給与体系に改善されたとも聞きます。
平のMRでも優に年収1000万円は超えています。ましてや管理職からの降格組は1300〜1500万円。
簡単には辞められません。
時はすでに2010年代
某社にもれず、業界全体でリストラ、いや、もとい、早期退職制度の実行があちこちで聞かれるようになりました。
いよいよ日本の市場がおかしな事に。
そう、市場が伸びないのです。人口が減少に転じ、国の予算がないから。
しかも、財務省の強い圧力の下、厚労省は強制的とも言える後発品普及策をなりふり構わず連発。
めぼしい新薬がない新薬メーカーの将来は先細り必至。
恩恵を受けたのは後発品メーカー(実はそれにも時限爆弾があるのですが)。
日本に限らず、全世界的に医療費、特に医薬品への価格抑制圧力は日増しに強くなり、どの製薬メーカーもリストラと新薬を狙った買収や吸収合併が当たり前になりました。
一般社員にとっての関心ごとは、もっぱら自分と自分の家族の生活。
おっさんMRも例外ではありません。
すでにあちらこちらでMRのリストラが始まっています。
巷ではMR不要論なるものも叫ばれ始めました。
こうなれば、なんとかして生き延びる!それしかない、それがおっさんMRの意見。
どんな屈辱にも耐えてみせる。
もはや会社に対するロイヤルティーなどとうの昔に忘れたのですから。
これがかつて名門と呼ばれた会社なのか?
社長と呼ばれる人物も、求心力があるわけでもなく、腰掛の本社の子飼いとしかみられていないのでは、社員のロイヤルティーが高まるはずもありません。
そういえば、会社の幹部は、外国人か、どこかからやってきた40代のMBAホルダーやMDに取って代わられたな。
若手もこれでは勤労意欲がわかないだろう。
年収は業種によって天井が決められ、出世にも資格が必要。
お先真っ暗な一般MR。
生き延びたおっさんMR
さて、くだんのおっさんはすでに50代後半。
かつては管理職でしたが、いまはただのMR。
降格は辛かったけれど、背に腹は変えられない。
プライドも見栄も捨てて生き延びました。
若手の社員からは、「◯◯さんは、いいですね。いい時代でしたね。いまはMRの給与はあるレベルで頭打ちになって、◯◯さんのような年収にはなれない。しかもこの先いつクビになるかわからない」と嫌味とも取れる恨み節が。
「確かにそうだ。良い時代だったのかもしれない」
自分の同級生はほぼ皆んな退職してもういない、出世頭のアイツはとうの前に、自ら退社したし。
残って結構出世したアイツ達もすでにリストラにあって、いまは後発メーカーや名もないベンチャー勤め。
平社員に降格されたとはいえ、家族はほんの数万円の負担で23区の借り上げ社宅に住み、自分は地方に単身赴任。
1日数件の開業医訪問が自分の仕事。外勤すれば日当ももらえるし、単身赴任手当ももらえる。
ノルマはないわけではないが、このご時世、それほど厳しものではない。
何よりすでに50代後半、この年齢になったのだから、万が一早期退職制度の対象になれば、働くよりもそちらの方が手取りが増える状況。
なので、リストラされてもいいし、このまま65歳くらいまでMRをやってもいい。
仕事が楽しいわけではないけれど、もともと出世してバリバリ組織を回すタイプでもない。
プライドを捨てればもう逃げ切ったようなもの。
「○○さん、じんせいにげきりましたよね」って後輩に言われるけど、確かにその通り、逃げ切った。
こんな人生で良かったのかって?
良かったとは言えない。
だけどもっと悲惨な人生も見てきた。
年金だけでは2000万円足りないと一時話題になったけど、自分には関係ないレベル。
むしろ周りで普通っぽく生きている人の方が心配になる。俺の年収1千数百万円。
たまに大学時代の同窓会に出掛けるけれど、皆の年収は1千万にも届いていない。それを考えれば、俺の人生はよかったのだと思える。
人生万事塞翁が馬。
気楽にやっていきますよ。
感想
こんな生き方もあるのです。
人生、人それぞれです。
その人が幸せと思えばそれが幸せ。
ストーリーはフィクションですが、読む人が読めば分かる内容ですね。
そしておっさんMRは私が今回知り得た情報を与えてくれた実在人物。
製薬会社はこれからも激変の時代でしょう。
武田がどうなるのか?
第一三共やアステラスは?いやそれより中堅は生き残れるのか?
後発品会社はどうなんな?
当事者はもとより、外野にとっても気になるところではあります。
ですが、結局人生万事塞翁が馬。
ちょっとしたことに一喜一憂しないで生きることが、幸せになるヒントかもしれませんね。