製薬会社は現在リストラの真最中です。
これまでの稼ぎ頭であった製品の特許が次々に切れて、後発品に売り上げを奪われることは必至。
しかし、それを補う新薬は足りない。
生き残りをかけた製薬会社の経営戦略はもはや待ったなし。
苦肉の策を出すしかない経営幹部
売上が下がるのならば、経費を削って当面の危機を乗り越えざるを得ない。その対策として研究所を閉鎖し、工場を売り払って外注化、そして固定費として重くのしかかる人件費、特にMRのリストラを断行せざるを得ない。
いくら経費を削減しても問題の解決にはなりません。この状況を抜け出すには、新薬を出すしかありません。ですが、そう簡単に新薬は出ません。
新薬の枯渇は日本企業に限ったことではなく、世界の名だたるメガファーマでも同じことです。
生き残れるのは、莫大な研究開発費を賄える企業、独創的な研究開発力を有する企業のみ。
恐らく日本の製薬会社のほとんどは今の状況を保つことは不可能でしょう。
それでも手をこまねくわけにはいきません。
そこで各社あの手この手で延命を図ります。
大鵬のティーエスワンが後発品市場構造を変える!?
日刊薬業は、大鵬薬品のティーエスワンという抗がん剤のAG(オーソライズドジェネリック=先発メーカーが第三者に許可して、先発品と同じ原材料を使い同じ製法で作られた後発品)が短期間で高い数量シェアを獲得したと記事で述べています。
後追いにも変わらず、後発品内シェア80%を獲得したとか。
「他の後発メーカーは薬価が安いことによる患者負担の軽減を強調したが、AGつまり先発メーカーと同じ品質の製品が発売されたことの安心感が後発品に勝った」との大鵬薬品広報のコメントを掲載しています。
そして記者は、AGには後追いであっても市場構造をがらりと変えるだけのポテンシャルがあると分析しています。
この分析は間違いではないでしょう。市場構造は変わるのかもしれません。
ですが、この手段が主流になると、規模の小さい日本の新薬メーカーとして生き残ることは、これまで以上に困難になるはずです。
多くの調査で、いまだに医師や薬剤師たちの多くは後発品に対して疑問を持っており、自分や自分の家族には使わないと述べている方たちさえも存在します。
出来ることなら、先発品を後発品と同じ価格で買いたい。薬価差も欲しい。それが本音でしょう。
しかし、それに対応すれば、先発メーカーは一気に利益を吐き出すことになります。
AGが普及しなかった背景
ここですこしAGの歴史を見ておきましょう。
AGという考え方、製品は米国市場で生まれ浸透してきました。後発品メーカーに市場を取られるくらいなら、先発品と同じものを第三者に販売できる権利を与え、後発品が出る前に市場を置き換えてしまう。
その利益を分け合えば、指をくわえているよりはましだろうとの考え方です。
しかし、日本では国民皆保険制度で薬剤費用が償還され、例え後発品が参入しても急激には市場を奪われなかった先発【長期収載品】メーカーは、AGの投入には消極的だったのです。
急激に市場を奪われる心配がないのに、わざわざ自らAGを発売させて自社製品である先発品の売り上げを奪わせる。これは自分で自分の首を絞めるようなもの。
早くから、多くの外資を含む日本で先発品を売るメーカーの企画担当部署はAGの導入を検討しましたが、一部メーカーを除いて、その導入の可否への答えはNOでした。
しかし、厚労省による薬価抑制策が日増しにその猛威を振るう状況に、もはや看過できない状況となってきています。
厚労省は、市場を後発品に奪われない先発品(長期収載品=後発品のある先発品)は強制的に薬価を下げ、場合によっては市場退場を余儀なくするという薬価削減策を明らかにしました。つまり長期収載品では食えなくなることが確実になったのです。
薬価はこれまで以上のスピードで引き下げられ、手をこまねいていれば市場から退場になるのであれば、少しでも目先の利益を得たい、そのようなモメンタムになってきています。
大鵬薬品ティーエスワンが示す業界の未来
さて、話を元に戻しましょう。
今回の大塚ホールディングスによる後追いAG導入。
抗がん剤であるティーエスワンのAGが後追いにもかかわらず市場を80%奪ったと絶賛されています。抗がん剤の場合は後追いでもシェアを取れるとのロジックです。
ですが、そのことが企業として何を意味するのか、よく考える必要があります。
2013年、後発品発売前のティーエスワンの売り上げは370億円程度であったと報告されています。
後発品の参入が2013年6月、AGの発売が2017年6月。その時点での先発品の売り上げは約270億円であったとの報告があります。
この数字を基に計算してみましょう。
2017年6月時点での後発品の数量シェアは約10%。
2013年当時のティーエスワン配合OD錠T25 25mgの薬価は680.6円
後発品の薬価は372.5円でした。
これらの数値を基に計算すると、
先発品の売り上げ=270億円(数量シェア90%)
後発品の売り上げ=16.4億円(数量シェア10%)となります。
数量は、合計約44百万錠(他の剤型を全てOD錠に換算しています)
この数値を用いて、大鵬の売り上げを計算します。
大鵬薬品のAGが市場の80%数量シェアを取ったと報道されています。
この数字を基に計算すると下記のようになります。
注:大鵬の利益はAG販売会社の岡山大鵬を含む。数字は全て当サイトの予測であり実際の数字と相違があります。
上記のとおり、例え子会社の後発品会社にAGの販売を委ねたとしても、利益は40%程度も減少します。
これが単なる提携会社への権利付与であればもっと利益は低下します。
大塚ホールディングスは新薬を抱え、グローバル展開に成功しているので、このような施策を打てます。
ですが、新薬がなく、利益を確保できない状況のメーカーが「抗がん剤であれば後追いAGでも市場を取れる!」と単純に喜んでいるとはとても思えません。
ただし、既述の如く、手をこまねいて後発品対策を実施しても、結局は薬価制度で強制的に市場から退場させられるのであれば、最初からAGを出して少しでも利益を確保する、との考えになるのもうなずけます。
まとめ
AGはこれから先発メーカーの後発品対策として必然の策になるでしょう。後追いなどといった悠長なことはいっていられません。行政には勝てないのです。
おそらく今後は、後発品が出るタイミングで、あるいは後発品が出る前にAGを投入する事態になっていくでしょう。
しかし、これによって戦略変更を余儀なくされるのは、後発品メーカーです。
AGを出せない後発品メーカー場合、市場シェアを取ることがますます難しくなります。
後発品メーカーの淘汰が始まります。
一方の先発メーカーも特許が切れた時点で急激に売上・利益供の低下することを覚悟しなければなりません。
くしくも業過では先見の明があると目されている中外製薬永山会長が下記のように述べています。
今後製薬産業はどのように変貌していくのでしょうか。