以前より別の記事にてお伝えしていました大正製薬の早期退職募集が実行されました。

巷では、現社長によるリストラ強権発動である!との投稿記事やTwitterもありますが、実際のところどうなのでしょうか?
【#企業】大正製薬社長(42)「中年社員はいらない。社員にはショック療法が必要」大正製薬、大リストラを実施https://t.co/1CgFRyrE6Y#まとめ #リストラ #企業 #社員 pic.twitter.com/kASVH6YbUJ
— LH MAGAZINE (@Life_hacker_net) September 10, 2018
今回は前回の記事からさらに一歩踏む込み、約20年前の大正製薬凋落開始の状況まで遡り解説します。
大正製薬のリストラは現社長の将来を危惧した施策なのか

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「大正製薬? あ、あのリポビタンD やパブロンの会社ね!」
大正製薬は世間では一般・大衆薬のメーカーとして名が知れています。
長年にわたり、「ファイト一発・リポビタンD!」 のコマーシャルで皆さんおなじみの会社です。
現在この会社が将来の岐路に立たされています。
大正製薬は今年2018年5月に早期退職優遇制度の実施を発表しています。
大正製薬と国内グループの従業員約6300名を対象として人数に制限をかけずに募集をかけるというものです。
勤続10年以上かつ40歳以上の従業員が対象でしたが、8月に募集をかけたところ、948名が応募しました。ざっくりと、全従業員の15%です。
働き盛りの、これから会社を背負って立つ年代の社員がごっそり抜けます!
情報によると、この大きな決断をしたのは現社長の上原茂氏と言われています。
米国ケロッグ経営大学院でMBAを取得し、経営学に長けた次期総帥。その目には今リストラが必要であると映ったのでしょうか。
世間では十分な営業利益があるにもかかわらずリストラを断行するのは、ショック療法のための荒療治とTweetされています。
ですが、内部事情にくわしい情報提供者によると、必ずしもそう単純ではないようです。
大正製薬は縦から見ても横から見ても下から見ても、国内企業です。
その経営の仕方も考え方も国内企業です。
そして同族企業なのです。上場会社であっても、同族の声は大きいのです。
そして、外から見る以上に業績の悪化は激しいのです。
製薬会社では新薬が命

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製薬会社は新薬がなければ生き残れません。
生き残りをかけて、優秀な社員たちが自分たちの研究テーマや将来の製品ライセンス候補について精査し、その利益性も含めシミュレーションを行います。
あらゆる可能性を議論し、会社の将来のためにポートフォリオを決定するのです。
ところが大正製薬ではそのようなプロセスではなくなってしまっていたようです。
「あまりに精緻なデータを出されると、、、、、」
「 データはデータ。それが当たるとは限らない」
「もうそういう分析はしなくていいよ!」
大失敗の医科向け向け進出

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冒頭にも書きましたが、大正製薬という会社は一般大衆薬の大手企業です。
つまり、町のドラッグストアで売られているような薬剤を開発製造販売しているリーディングカンパニーだったのです。
古くから医科向けの医薬品も持っていましたし、それなりの売上、それなりの利益を上げていたのです。
ただし医科向け専門大手メーカーと比べると、その存在感はとても小さいものでした。
その状況を打破するためなのか、2000年冒頭に窮地に陥った富山化学という抗生剤に強いメーカーに資本参加しています。
後述しますが、この資本参加を含む多くの提携からは 美味しい果実を得ることはついぞできませんでした。守秘義務の関係でこれ以上詳しくは書けませんが、惨憺たる戦果だったようです。
医科向け新薬の開発品が成功する確率は数百から数千分の一。 さらにそれを販売するチャンネルも全く違うものです。
つまり大正製薬の長年の経験はほとんど生かせなかったということになります。
結局大正製薬は医科向け医薬品市場で、十分な成果を見ることなく、今回、事実上の大きな後退という結果を見ることになってしまいました。
会社としては医科向け市場からの撤退を発表はしていません。しかし、現況を見るに、 医科向け専門で生きてきた製薬会社でさえも断崖絶壁に立たされているのが製薬産業の現実です。
中堅どころの社員がごっそり抜ける大正製薬。これから業界でプレゼンスを高めていくというのは、それこそ至難の技と言わざるを得ません。
苦難が待ち受ける大正製薬
18年3月期決算369億円もの営業利益。にもかかわらずリストラとは何事だ!と報じている記事もあります。
しかしそうではありません。
2000年冒頭には800億円を優に超えていた利益。それが、半減以下の369億円に落ち込んでいるのが現実です。
大正ホールディングス 18年3月期
- 売上高280,092百万円
- 営業利益36,977百万円
- 営業利益率13.2%
大正製薬 18年3月期
- 売上高205,164百万円
- 営業利益25,912百万円
- 営業利益率12.6%
引用:大正製薬IR情報
ちなみに、医科向け医薬品大手の一角を占めるアステラス製薬の売上と利益を見てみましょう。
アステラス製薬 18年3月期
- 売上高1,300,316百万円
- 営業利益213,258百万円
- 営業利益率16.4%
引用:アステラス製薬IR情報
大正製薬はアステラス製薬と比較して、売上は1/6、営業利益は1/8の大きさです。
アステラスでさえも世界で生き残るのは至難の技と言われています。
大正製薬の規模を見ると、医科向け製薬として今後生き残こりを図るのは厳しい状況です。
ですが問題はそこではありません。
さまよえる名門企業大正製薬

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2000年の冒頭に800億円を超える営業利益を叩き出したのは大衆薬でもなければ医科向け薬品でもなかった。
2000年3月期の連結経常利益は898億円でした。これは驚異の利益率だったのです。
その大半を叩き出したのはリポビタンD とリアップだったのです。
しかし栄光は続かず、リポビタンDの売り上げは2002年3月以降減少の一途となりました。
リポビタンDは水物と呼ばれ、原価率が低く非常に利益率が高い商品だったのです。
リアップも同様です。アルコールと添加剤、有効成分はごく僅か。とても利益性が良いのです。
そこで大正製薬は、減少に転じたリポビタンDを立て直す施策、それを補う数々の施策を打ってきました。
その一つが医科向け医薬品の強化だったいうわけです。
しかしそのどれもが功を奏しませんでした。
それどころか、若者のドリンク離れは激しく、今やレッドブルに代表されるエナジードリンクに取って代わられることに。
さらにリアップは特許切れとなり、今後激しい競争にさらされることが予測されます。
もはや待ったなしの大正製薬、その行方は

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医家向け医薬品での飛躍はもはや期待できず、 頼みの綱のドリンク剤は風前の灯。
大衆薬事業もは縮小の一途。
四面楚歌状態とはまさしくこの状況なのでしょう。
ショック療法がどうのこうの、などという生易しい状況ではありません。
業界は違いますが、今最もホットなニュースの一つはスルガ銀行の不適切融資問題です。
スルガ銀行の問題も創業家の力が強大すぎた事が、一つの大きな原因だったと分析されています。
大正製薬においても上原家の力は強大です。
正しい経営のためにどのような議論が行われ、決断を下すのか。 大正製薬の将来は待ったなしです。
追伸

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日本企業が早期退職制度を実行をする場合に、このように部署や人数に制限をかけずに募集することがあります。
広報部門は費用は計上済みであり想定内であるので問題ないと発表します。
ですがこれは大きな間違いです。
リストラになれた企業はこのような手法はとりません。

その後の経営がままならなくなるからです。企業にとって、人こそが財産なのですから。
今回の大正製薬の早期退職優遇制度での一人当たりの費用は約1290万円です。
他の産業から見ると破格の金額かもしれません。ですが製薬産業では決して十分な金額ではないのです。
それでも948名が手を挙げたというのはどのような状況なのか。
沈みゆく船から逃げ出すネズミたち。
状況は推して知るべしでしょう。
名門同族企業たるが故の苦しみでしょうが、なんとか再起を図ってもらいたい。
おまけ
引用:東洋経済
NO NAME87b148e8898a現場知らずのmba社長とかナイアガラ信号だな。
退職金貰えるうちに逃げて正解。辞めた人は賢いよ。
NO NAME0d2f78afdb03ショック療法というより自己崩壊と称した方がよいのでは。
働き方改革法案で今居る中堅使い潰すこともできないし、一番役に立つ世代放り出してどうするんだろう。
NO NAME5196da17c140いかにもチャラいKO boyらしいね。将来展望を見据えた改革ではなく、見た目重視。俺は人件費をこれだけ削減したぞとアピールしたいだけ。早期退職制度に応募した従業員が多かったというが、単に経営トップの資質のなさをを見限った人が多かっただけなのでは?
以上