321ページに及ぶスルガ銀行の第三者委員会による報告書が発表されました。
調査報告書の目的は事実を確実に把握し、原因を究明することにあると記されています。
その目的は達せられたと言えるのでしょう。
確かにこれまで噂レベルで報道されていたものが、厳然たる調査の元、事実として報告されたのですから大変有意義なものであります。
そしてこれまで噂として報道されていたものほぼ全てが、事実であったと判明しました。
しかし詳細に調査されたとはいえ、これまで以上のサプライズはなく、それらを追認するレベルでありました。また、ところどころ、歯切れの悪い感を得たのは私だけでしょうか?
報告書は、
とても長く、読み切れない分量です。今回は、特に法的責任に関する部分を抜き出し、考察しました。
スルガ銀行が関わるスマートデイズに端を発するシェアハウス融資における法的責任
取締役会
取締役会については善管注意義務違反も法的責任の追及も認められない。
岡野会長
善管注意義務違反はあるが、本件の構造を構築してしまったことについての法的責任は認められない。
銀行の決定に背いてその後もスマートデイズに融資がなされていたことに気づく立場にあったにも関わらず、適切な措置をとらず、融資が実行されていたことについての事実報告はあるものの、拘る責任については言及なし。
米山社長
善管注意義務違反はあるが、岡野会長同様、適切な措置をとらず、融資が実行されていたことについての事実報告はあるものの、法的責任は認められないと認定。
故・岡野副社長
1. 過度に営業推進に傾斜した人事制度を採用した
2. 営業現場に極端な実績主義を横行させた
3. 営業重視の風土を作り上げ融資審査途上管理などの必要なノウハウを営業拠点から喪失させた
4. 審査の簡素化を極端に促進し、営業部門による審査の圧力を放置容認した
5. スマートライフに関する不芳情報を知ったにも関わらず、口頭で取り扱い中止を指示しただけで文書化やprm への登録を怠った
6. 融資書類偽造屋サブリース会社の財務状況の不健全性の報告を受けていたにも関わらず対応しなかった
7. 行内の情報の分断化を放置し、 取締役でもない麻生氏にCo-COOの呼称を与えたうえで、厳しくプレッシャーをかけ、本件の構造を構築してしまった主たる責任者である。
しかしながらすでに逝去されているので、委員会としては法的責任についての判断は留保する。
白井専務
善管注意義務違反は認められるものの、本件の構図構築に関わる法的責任は認められない。
望月専務
善管注意義務違反は認められるものの、本件の構図構築に関わる法的責任は認められない。
岡崎氏
善管注意義務違反及び一部は法令違反があると思われる。
本件の構図が作出されたことに関する経営責任という観点で見ても、故・岡野副社長に次ぐ重い責任が認められる。
柳沢常務
善管注意義務違反があるものと思われるが、本件の構図との関係での責任は負わないと思料される。
有國取締役
明らかに善管注意義務違反に該当するとまでは認められない。
麻生氏
執行役員としての注意義務に違反していたものと認められる。
麻生氏は経営陣ではなく情報の断裂を自ら生み出した立場ではない。 したがって本件のコースを作った張本人ではなくそこに責任があるとするのは酷であろう。
社内監査役
いずれの監査役も、社内監査役として善管注意義務違反に違反するものと思料する。
社外取締役及び社外監査役
本件に関わる情報が伝達されていなかったので法的責任は認められない。
(社内監査役から状況を知らせていなかったので、法的責任はないと帰結されています。
ですが、そのような判断になるのであれば、社外取締役や社外監査役は単なるお飾り、無駄な報酬を支払って何の役にもなたない存在ということにならないでしょうか?
日本の社外取締役や監査役はもたれ合いということを、第三者委員会が認めるのでしょうか)
【今回の調査報告書は、非常に大きな論点を世に投げかけたことになります。】
実際に法的責任を取るのか
この報告書のこの部分を選んでも理解に苦しみます。
善管注意義務違反があったが本件の構図との関係での法的責任はない。
今回の事件に関わったほとんどの責任者たちに対する第三者委員会の見解です。
善管注意義務違反は認められる。善管注意義務違反及び一部は法令違反がある?経営責任という観点で見て重い責任がある。本件の構図構築に関わる法的責任は認められない。
一体第三者委員会は何を言いたいのか?
結局証拠は抑えたのであとはよしなにということなのでしょう。
なんとも玉虫色の書き方です。
本件の構図との関係での法的責任はないと書かれているので、何ら法的責任を負わないのかと思われるかもしれません。
しかしそうではなさそうです。
善管注意義務違反が認められればその時点で法的責任を負います。
取締役が善管注意義務に違反すると、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。これは任務懈怠責任と呼ばれるものです。賠償額は取締役の行為又は不作為によって会社が被った損害の金額です。取締役が損害賠償義務を負う場合には、仮に会社が取締役に責任追及をしなくとも、一定の要件の下で株主が訴訟を提起することもできます(いわゆる株主代表訴訟)。
引用:弁護士が教える|会社のための法律
しかし、これは民事事件であり、被害者がその損害の回復を求めて訴えるかどうかという構図になりそうです。
スルガ銀行の罪
このレポートはあくまで第三者委員会による報告です。
スルガ銀行が善管注意義務違反が認められた者達に対して責任を追及するのか、あるいは株主が訴訟を提起するのか、それは第三者調査委員会の仕事ではないでしょう
しかし、2015年2月時点でスマートデイズの前身であるスマートライフを出入り禁止にしていた事実。
それを迂回するために作られたアマテラスという会社の案件に対して融資をし続けた事実。
非常に似通った案件(東京23区に土地を購入して、シェアハウスを建築して30年間家賃を保証する)、いや全く同じ案件が多数融資申し込み、審査され、そして融資が実行されたという事実。
まともに考えれば、いきなりアマテラスというような聞いたこともない会社が、これまでと同じ内容の案件を大量に持ち込めると考えるには無理がないでしょうか?
それらは、行内で数々の疑問が提起されてからも実際に大量に融資実行され、不良債権化しているのです。
今回の報告書では、明確な証拠がないものは全てお咎めなしとなっています。
しかし、その時点でまともな対応をとっていれば、被害はここまで大きくならなかったはずです。
スルガ銀行の今後
融資を受けた人達に全く責任がないとは言いません。
隠蔽された情報の元に、高騰する株価を好感して株を買い進めた株主はどのような気持ちでしょうか?
今回の甚大な被害額。それに比して大した資産のない個人への訴訟。
詐欺師が経営する会社の案件を見過ごし、偽装を助長してまで融資をつけ続けたのです。
それが個々人の善管注意義務違反レベルなのでしょうか?
組織としての責任はどうなるのでしょうか。株式会社の責任の所在を全て個人に求め、終わりでは済まないでしょう。
銀行を管理運営する者たちの行為で人生が狂った人たちへの賠償を、銀行としてどうするのでしょうか?
銀行として下記のレポートが出されてます。
唯一の救い?はこの状況であっても、倒産の可能性は非常に小さいということでしょうか。
心情的に倒産を望む声も聞こえてきますが、日本経済への影響を考慮するとそう簡単な問題ではありません。
スルガ銀行の規模は単なる地方銀行の域を超えています。
企業の DNA はそう簡単には変わりません。創業家が経営から退いたとしてもです。
今回の第三者委員会報告書にも記されているように、社内統治の仕組みの問題ではありません。組織や委員会、社内規定などはいくらでも作れます。
企業を良い方向に持っていくかそうでないかは、ソフトウェアにかかっているのです。
企業は人が運営しているのです。最も権限を有しているのは誰なのか?人事権を掌握しているのは誰なのか?その意味では、トップの責任はこの上なく重いでしょう。下からの報告がなかったから責任がないとする結論では納得がいきません。
これまで大きな不祥事を起こした会社も、徹底的なリストラによって再生を果たしています。
骨を断ち身を切るような大掛かりな企業文化の再構築が求められるところでしょう。
例え個々人の法的責任を追及したとしても、失われた過去は回復しません。
今後スルガ銀行は、どのようにして信用を取り戻すのか。
返済に窮してしまっている債権そのものをどのように処理するのか、まだまだ先は長そうです。
調査委員会は下のように記しています。
本来ここまで劣化した場合、それを劇的に改善するには、他の企業と統合するとか、 経営層の総退陣等、根本的な経営基盤の変更が必要ではないかと思われる。新しい人材 が新しい風・価値観を持ち込んでくれない限り、自力では変われないのである。 しかし、そのような劇的な外科措置については、当委員会として具体的な提案をでき るわけではない。
すでにスルガ銀行の経営陣は総退陣して入れ替わりました。
この銀行が立ち直れるかどうかは、すべて新経営陣の手に委ねられることになりました。
追記
ここまで大きな事件となり、社会問題と化した原因の一旦はスルガ銀行責任者たちにあることが認められました。
しかし、その根本原因であるスマートデイズ社およびその創設者、さらに代表取締役であった大地氏に対する処分はどうなるのでしょうか?
責任を追及する者がいなければお咎めなしなのでしょうか?その点に関してなんら言及がなかったことについては、スルガ銀行に関する報告書であったとしても残念な気がします。
大きく報道されるには至っていませんが、実はすでに他に被害が拡大しています。
業界大手のソーシャルレンディングでも被害が出ているのです。業界大手のソーシャルレンディングが騙される事件です。
少し勉強したぐらいの、にわか投資家を騙すのは赤子の手をひねるよりも簡単なことでしょう。
次から次に手を変え品を変え詐欺を働き、人を騙し大金を手に入れる男たち。
このような男たちを野放しにしている限り、今回のような事件は後を絶たないでしょう。
