ジェネリック医薬品の苦悩|退路がない後発品メーカー生き残りは?

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後発品シェアが、厚生労働省の思惑通り2020年9月を待たずして市場シェア80%に達する見込みです。

しかし、ここに来て厚生労働省は後発品メーカーに牙をむいてきました。

言うことを聞いた後発品産業に対する厚労省の仕打ちとは?

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お上の言うことを聞くしかない後発品企業

「これからますます薬価は下げていく。それで利益を確保できないメーカーは淘汰やむなし」

公に口には出さないものの、これが監督官庁からの暗黙のメッセージです。(当サイトの解釈です)

薬価が安い後発品を市場シェアの80%にする目的は、とりもなおさず、経済・財政的理由でしょう。

「国民皆保険制度を守るために実施するのであって、経済・財政的理由ではない」という意見もありますが、詭弁です。煎じ詰めれば、財政的破綻を避けねばならない、その為には混合診療も了承するし、薬剤費も極限まで絞って、財源を確保する。

つまりは財政的理由以外の何物でもないのです。

薬価を強制的に引き下げられる後発品並びに長期収載品市場での生き残り

厚労省は2019年10月の消費税率引き上げを期として、更に多くの薬価引き下げ策を強行します。

  • 毎年薬価改定
  • 長期収載品の薬価引き下げルール
  • 収載後12年を経過した後発品の一価格帯への収れん

これにより、日本市場では薬価はアリジゴクのように、最低薬価まで下がっていきます。

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もはや営業戦略で薬価を守ることは不可能です。

ここまでの例を見るまでもなく、役所、つまり厚生労働省がやると決めれば、どんなことをしてもそれを実現させます。それが規制産業の際たるものの一つ、製薬産業の運命です。

後発品メーカーがやらなければならないことは何?

高品質で、差別化した製品の投入でしょうか?
日本は縮小市場なので、海外に打って出ることでしょうか?
薬価制度の網をくぐって出来るだけ高い薬価を維持する事でしょうか?
全てNoでしょう。

応えは明白です。

海外大手後発品メーカーでも苦戦する、低薬価しか認められない市場でも生きていけるだけの価格競争力を持つ。

ここが今後のキーになるはずです。

 

答えは明白なのです。にもかかわらず、いまだに多くの後発品メーカーは暗中模索状態です。このままでは、いや既に遅きに失しているともいえますが、策がない企業は廃業やむなしとなるのは火を見るより明らかです。

感違いしてきた後発品メーカー

ところで医薬品の世界で、後発品の意義はなんでしょうか?

後発品とは特許が切れた医薬品と同等であることを保証した製品です。

そこに求められているのは、

  • 先発品と同等の品質
  • 安定供給
  • 安価

(情報の提供も必要と言われていますが、インターネットが普及した現在では大きな意味を成しません)

最も重要なことは、「安価」であるということ。それにつきます。

先発品よりも飲みやすいとか、扱いやすいなどという付加価値は、基本的には求められていません!

あったらいいけど、それで高くなるのなら、意味がないのです。

それにもかかわらず、剤型開発に多額の投資をして、高薬価を狙ったり、流通施策で高薬価の維持を図ったり、品質が高い事や情報提供体制が整っていることをアピールしたりと。

そして生き残るための時間を浪費してしまった。国民皆保険という甘い蜜に甘えたツケが回ってきます。

 

国が求めているのは、そして国民が求めているのは、必要とする品質が担保された、最も安い後発品です。それだけです。

必要とする品質を担保するために、高い原価でしか製造できないのであれば、市場撤退するしかありません。

厚労省の施策によって後発品の数量シェアが増えることは、後発品メーカーにとっては喜ぶべきことではありません。

大量生産によって原価を低減することは可能ですが、それ以上に策を練らなければ、自殺行為ともいえる施策である事に気づいているメーカーはどれほどあるのでしょうか?

国の要請に応え国内の生産能力を増強しても、今後は後発品として出せる製品自体が激減していきます。

割高の製品では海外にも出て行けません。

化学合成品用の工場設備では、今後必要とされるバイオ医薬品の後発品製造に対応できません。

下手をすれば、多額の投資が減価償却が終わるまでに、その用を終える可能性もあります。

このような状況なのですから、後2~3年で抜き差しならなくなるメーカーは少数では済まないでしょう。

後発品産業の状態と、数年後の未来を予測する

「厚労省の思惑によるわが世の春であった後発品メーカー」

平成25年4月に「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ』が発表されました。後発品の数量シェアを平成30年3月までに60%にすることを明示したものです。

その後改定され、2020年9月までに80%とすることになっています。(計算方法の違いによるところが大きいですが、ここでは割愛します)

その後廃業したメーカーはほとんどなく、規模が小さく、一定品質の製品を大量に生産できないメーカーを含め、現時点で後発品メーカーは180社程度存在します。

厚労省の後発品数量増の施策に乗って、多くの後発品メーカーは増収増益を享受してきました。

あと数年で撤退を余儀なくされる弱小メーカー

後発品業界では、品目数が多すぎて自社では全ての製品を製造できないので、どこかの会社に製造を委託してそれを販売しているのが現状です。

いわゆるもたれあいです。なので、一つの先発品に対して20数社もの後発品が発売されるのです。自分で自分の首を絞めているとしか言えません。

自社で全ての後発品を生産出来るメーカーはほぼ存在しない。

それでもこの間6年、後発メーカーは厚生労働省の施策に乗って数量を伸ばし、売上、利益ともに右肩上がりでした。

しかし実情はそんなに甘くないようです。

後発品大手の2社の財務状況を見てみましょう。

日医工

平成25年3月期売上=93,926百万円、経常利益=8,470百万円

平成30年3月期売上=164,717百万円(1.75倍)、経常利益=9,067百万円(1.07倍)

 

沢井製薬

平成25年3月期売上=80,502百万円、経常利益=17,601百万円

平成30年3月期売上=168,068百万円(2.09倍)、経常利益=20,251百万円(1.15倍)

 

後発品業界を牽引する大手二社の売上は、この5年間で実に約2倍になっていました。しかし、注目すべき点は、経常利益です。

経常利益は、ほとんど増えていません。

これは、増える需要に合わせて生産能力増強のための投資を余儀なくされ、更に厚生労働省が求める「品質」や「安定供給」に応えるための投資も避けられず、更に薬価は強制的ともいえる手法で引き下げられるわけですから、当然の帰結ともいえます。

海外に進出した為に、のれん代が利益を圧迫しているという面もありますが、海外市場ものちに述べますように非常に厳しい状況です。

このような事態は想定できたはずです。

いや、経営者として想定して対応していなければならない経営環境の変化だったのです。

大手メーカーですらこの状況です。

そこから推定すれば今後、弱小メーカーは相当厳しい状況に置かれることは想像にかたくありません。

後発品産業としての鍵は、これら大手後発品メーカーが弱小メーカー分の生産及び供給を賄い、最低薬価で医薬品販売をを維持できるのかどうか?

対する、所謂新興勢力や外資メーカーはどのように対応してくるのか?という事になります。

新興勢力の戦略

後発品メーカーの中で新興或いは兼業と言われる勢力があります。

新薬メーカーが新薬が枯渇して、経営を維持するために後発品も手掛けるのが兼業。

その中で、戦略的な動きがみられるメーカーがあります。

Meiji Seikaファルマ

平成25年3月期売上=127,361百万円、営業利益=6,461百万円

平成30年3月期売上=168,400百万円(1.32倍)、11,000百万円(1.70倍)

古くより抗生物質に強いメーカーではありましたが、ここのところ新薬には恵まれず、後発品に注力せざるを得ない状況です。

ですが、このメーカー、「後発品の価値は安いこと」に意味があるという前提を置いて施策を打っています。

既に2015年にはインドのメドライクという会社を子会社として自社後発品の一部を製造させています。もちろんインドの医薬品製造会社には「品質」という観点から不安はあります。

品質を担保するためにコストを掛ければ意味はなくなります。

低価格戦略を取る限り、そこは乗り越えるしかありません。

今後の価格戦争に勝てるかどうか?注目したいメーカーです。

すでに後発品を諦めたとも言える企業もあります。↓

外資後発品メーカー

外資メーカーもその体力と低価格品で日本市場を狙っています。

しかし、事は簡単ではなさそうです。

テバファーマシューティカル

世界のトップに君臨するイスラエルの後発品メーカー。

ですが、ここのところ業績が冴えません。

18年の世界売り上げは188億5400万ドル。実に前年同期比16%減の成績でした。

公表されてはいませんが、武田と提携している日本支社も相当苦戦しているようです。不採算品を整理し、欠品も相次いで市場の信頼を落としていると見聞します。

日本市場も価格抑制圧力が強いのですが、全世界的に値下げ要求や政府の価格抑制が強くなっています。

これはテバファーマシューティカルズに限ったことではなく、多くの国際的後発品メーカーは同様に価格下落圧力にさらされています。

このような状況下、市場が伸びない日本市場において、外資後発品メーカーはアクセルを踏むのか、はたまた撤退を視野に入れるのか?ここも目が離せません。

まとめ

今回は再度、医薬品後発品産業に焦点を当てた記事を掲載しました。

医薬品産業は取りも直さず特許ビジネスです。

莫大な経費をかけ特許を獲得した新薬で利益を得、その利益を再投資して新たな新薬を開発する。
それが新薬メーカーのビジネスモデルです。

一方の医薬後発品産業のビジネスモデルは全く違います。

新薬メーカーの先発品の特許が切れた後に、それと同等の医薬品をわずかな開発費で市場に投入するのです。

市場が期待しているのは、受け入れられる品質であれば安ければ安いほど良いということ。
同じ価格で財形などの工夫があるのならそれを選ぶかもしれないということ。
しかもその選択権は患者さんではなく、医師や薬剤師にあるということ。

それほど高い技術が期待されているわけではありません。

どの国も医療費が高騰しています。

結果として価格抑制圧力は自ずと強くなるのです。

ところであまりそれに度が過ぎると、やはり品質に問題が生じてきます。

米国では、売れ筋の高血圧の治療剤の後発品に、発がん物質が混ざっていたということで回収命令が相次ぎ品不足になっています。

製薬メーカーを名乗るのであれば、たとえ価格圧力が強くとも経済性を優先せずに、その薬剤を必要としている人たちが安心して服用できる製品を供給してもらいたいものです。

その観点から、厚労省の価格抑制策も度が過ぎないことを祈るばかりです。

医薬品は私たちの生活になくてはならないものです。

品質が担保され、かつ患者さんが支払える金額の価格帯で提供される医薬品。このような世界が実現されることを願ってやみません。

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